新たな同居人7
僕が目を覚ますと、もうすっかり朝になっていた。
緊張して寝れないかなと思っていたけど、ぐっすり眠れたみたいだ。
ライムとエルも穏やかな寝顔を浮かべている。
「もう、カインさんったら、子供が100人なんて多すぎですよう……ムニャムニャ……」
「とても気持ちよくてあったかい……これが人間の交尾なんだね……スウスウ……」
どんな夢を見てるのかわからないけど、安眠できたのならいいことだよね。
まだライムとエルはベッドから起き上がれないみたいなので、そのあいだに朝ご飯を用意することにした。
今日から三人分になるから時間もかかるだろうし、早めに用意したほうがいいよね。
今日はサンドイッチにすることにした。
焼いたパンに具材を挟むだけだから簡単だし、カリッとしたパンの香ばしさと、しゃきしゃきしたサラダとの食感のコントラストがとても美味しい。
お肉を入れるだけでボリュームも出るからライムも満足できるし。
量が増えるのは大変だけど、そのぶん作り甲斐も増えるからやっぱり楽しいね。
「おはようございます~……、いい匂いがしますぅ~……」
「美味しそうな匂いがするね。もう朝ごはんの時間なの?」
ちょうど用意ができた頃に、ライムとエルの二人が寝室から出てきた。
「二人ともおはよう。ちょうど朝ごはんができたところだよ」
ライムはまだ眠そうだったけど、エルはしっかりしている。
もともとドラゴンは寝る必要がないって言ってたし、人間の姿になってもそれは変わらないのかもね。
二人とも席に座ったので、それぞれの前に飲み物と、作ったばかりのサンドイッチを置いた。
香ばしい匂いが立ちこめると、眠そうだったライムの目が一発で見開いた。
「わーい、カインさんのご飯です! いただきまーす!」
「ボクの分もあるの? ありがとう」
ライムがさっそく食べはじめる横で、エルも興味深そうにサンドイッチを手に取る。
シルヴィアたちとクエストをしているときもサンドイッチは出なかったから、初めてで珍しいのかもね。
「うーん、やっぱりカインさんの作ったご飯は世界一美味しいです~」
口いっぱいにサンドイッチを頬張りながら幸せそうな表情をするライムの横で、エルも一口食べると目を見開いた。
「わ、これ本当に美味しいよ。今までで一番美味しいかも」
エルの表情を見て僕もほっとため息をついた。
「よかった。エルのは特別に味付けを変えたから、ちゃんと喜んでもらえるか心配だったんだ」
「えー! そこのドラゴンばっかりずるいです!」
「ライムのもちゃんとライム用に作ってあるよ」
「……ほんとうですか?」
「ライムのは肉を多めにしてボリュームを増やしてあるからね」
「そうだったんですね! たくさん食べれてうれしいです!」
「ボクのはどうなってるの?」
「エルのは味付けを濃くしたんだ。前に味がわかりにくいみたいなことを言ってたからもしかしたらと思ったんだけど、口にあったみたいでよかったよ」
エルが前に言ってたんだけど、ドラゴンの時は食事というのは必要なくて、周囲の魔力を取り込むだけだったんだって。
魔力に味はないため、こういう人間らしいのが楽しいみたい。
でも食事というのに慣れていないせいか、普通の味付けだとちょっと物足りなかったみたいなんだよね。
だから少しでも味わってもらいたくて、マスタードを増やして少し濃いめの味付けにしてみたんだ。
「普通の人にはちょっと辛いくらいの味付けかも知れないけど、喜んでもらえたみたいでよかったよ」
エルは辛党ということなのかもね。
「うん、とても美味しかったよ。でもそれだけじゃなくて、ボクのために作ってくれたっていうのがうれしいんだ」
そういってほほ笑んだ。
ライムが鋭い視線を向ける。
「カインさんは優しくてカッコよくてとってもステキな人だから好きになってしまうのは仕方ないですが、カインさんはわたしが最初に会ったんですからあげませんよ」
「もちろんライムから取るつもりはないよ。ボクは人間の生活に興味があるだけだから。でも……」
エルがもう一口サンドイッチを口に含む。
目を閉じて味わうように噛みしめると、満面の笑みを浮かべた。
「人間はいつもこんなに美味しいのを食べてたんだね。ボクのためにわざわざありがとう。本当にうれしいよ」
それはいつもの静かで落ち着いた笑みではなく、本当にうれしそうな笑みだった。
エルはいつも落ち着いていてライムみたいに感情を爆発させることはなかったから、その輝くような表情に思わず見とれてしまったんだ。
「……カインさん?」
ライムがまるで夫の浮気を見咎める妻のような視線を向けてきたけど、こればっかりは許してほしいと思う。




