新たな同居人3
今日からエルも僕の家に住むことになったのでお祝いでもしたかったんだけど、長いクエストから帰ってきたばかりだし、夕食は簡単なものを作ってすませた。
そんなに多くは食べなかったんだけど、食べたらすぐに眠くなってきちゃった。
シルヴィアからテントを借りていたとはいえ、やっぱりずっと外で寝ていたからね。
疲れがたまってたみたいだ。
とはいえ僕の家にはベッドはひとつしかない。
いつもライムが無理やり入ってくるから二人で寝ているけど、それでギリギリなくらいの小さなベッドだ。
でも今日からはエルもいる。
さすがにこのベッドに三人寝るのは不可能だよね。
「じゃあ僕はソファで寝るから、二人はそのベッドで……」
「ダメです!」
「ダメだよ」
二人同時に却下されてしまった。
「カインさんはいつもわたしと一緒に寝ているんですから、そこのドラゴンが一人で寝るべきです!」
「いや、いつも寝るって決まってるわけじゃないし……」
確かに結果的にはそうなってることが多いから反論はできないけど……。
「さすがにエル一人だけなんてかわいそうだよ」
「ボクは一人でもいいよ。ボクたちは睡眠が必要ないから、寝なくても平気だし」
「ほら! このドラゴンもそういってますし!」
「だからといってそういうわけには……」
「それよりもボクはキミたちの交尾が見たいんだ。だからこの寝具は二人で使っていいよ」
「エルはなかなか話が分かるドラゴンですね。じゃあ今日こそ交尾をしてカインさんとの子供を作りましょう!」
「うん、交尾はしないからね」
「ぶーぶー」
ベッドの上でライムが頬を膨らませて抗議する。
普段は素直なライムもこういう時だけはなぜか頑固になるんだよね。
意見を変えるつもりはないだろうし、だからといってエルをソファで寝させるなんてかわいそうなことができるわけもない。
うう……。やっぱりこうなったら、方法は一つしかないかな……。
「……しかたない、三人で寝ようか」
ライムの顔がぱあっと輝きかけたけど、エルも一緒とわかってすぐに微妙な表情に変わった。
とはいえさすがに反対はしない。
エルも特に異論はないようだった。
僕がベッドの真ん中で横になると、すぐに左右からライムとエルがくっついてきた。
二人とも落ちないように僕の腕に強く抱きついてくる。
ライムはともかくエルまでどうして、と思ったけど、どうやらライムの真似をしているみたいだった。
「えへへ、あったかいですー」
「こうして誰かとくっついて寝るなんて今までなかったから、新鮮だな」
二人とも体の半分以上が僕に重なっていて、抱きついているというよりは乗っかっているといったほうが近い体勢になっていた。
そのせいで全身が密着してるから、いつも以上に緊張してしまう。
そう思っていたらライムがギュッと抱きついてきた。
「えへへっ、今日はカインさんがいつも以上に近くて大好きですっ!!」
首に腕を回して、頬を何度もすり付けてくる。
ライムの頬はやわらかくて、あたたかくて、いい匂いまでただよってくる。
脳髄のしびれるような感触に頭の中がくらくらした。
ううう……。なんだか密着度が上がってしまった……。
あまりの恥ずかしさに顔を赤くしていると、反対側からエルが耳元でささやいてきた。
「ねえ、今キミはとても興奮してるみたいだけど、どうして交尾しないの?」
「えっ、ええっ!?」
いきなりそんなことを言われて驚いてしまう。
そういえばエルは人間の感情が簡単になら読み取れるんだっけ。
体表近くの魔力を見ることで表層的な感情がわかるとか何とか……。
難しいことはよくわからないけど、確かそんなことを言っていた。
それを聞いたライムが勢いよく顔を上げる。
「わたしとは交尾してくれないのに、そこのドラゴンには発情するんですか!?」
「ううん、ちがうよ。カレは今ライムと交尾をしたいみたいなんだ」
「カインさん……♪」
ライムが目をハートマークにしてにじり寄ってくる。
半分乗っかっていた身体は、今や全身が僕の上に乗っていた。
「わかった、わかったから! まずは寝ないと。疲れてたら、その……こ、交尾も、できないからね」
強引に迫ってきたライムを力で押し返すのは難しい。
だから苦し紛れのいいわけになっちゃったけど、ライムは納得してくれたみたいだった。
「……はいっ、そうですね! やっぱり元気な子供が欲しいですから、いっぱい休んで、それからいっぱい交尾しましょう!」
ライムは僕に抱きついたままうれしそうに目を閉じた。
僕の上に乗っているからちょっと重いんだけど……。
これくらいは我慢するしかないかな。
エルも「なるほど。人間は休んでから交尾するんだね」と納得していた。
「元気になった二人がどんなすごい交尾をするのか、楽しみだな」
……なんかそういわれるとすごくアレだなあ……。
でもさすがにこんな状態じゃ眠れないだろうなあ、と思っていたんだけど、やっぱり長旅の影響か疲れがたまってたみたいで、目を閉じると僕もすぐに寝てしまったんだ。




