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この感情の名前は

 口ごもる僕に向けて、シルヴィアは詰め寄るように近づいてきた。


「なんでもないわけないだろう。私たちは将来を誓い合った仲なのだ。隠し事はよくない。も、もちろん正式な手続きはまだだが、将来的にはそうなるのだから、それは実質私たちはもう夫婦になっているといっても過言ではないというか……」


 ううう……。顔が近い。

 シルヴィアってこんなにスキンシップが積極的だったっけ……。

 それに意識したばかりだから、なおさらシルヴィアがかわいく見えて恥ずかしい……。


「いや、その……」


「なんなのだ。正直に言ってくれ。少しでもカイン殿の力になりたいのだ」


 それはきっと本心だろう。

 まっすぐに見つめてくる瞳からもそれがわかる。


 シルヴィアはこのまま諦めそうもない。

 これはもう、正直に言うしかないかな……。


「えっと、それじゃあ、いうけど……」


「ああ。なんでもいってくれ」


「その……笑わないで聞いてほしいんだけど……」


「もちろんだ。カイン殿を笑うようなことなどあるわけない」


「シルヴィアの笑顔がかわいかったから、つい見とれちゃって……」


「え? あ……」


 シルヴィアの顔が驚いたように固まり、やがて首元まで真っ赤になってしまった。


「そ、そうか……」


「うん、そうなんだ……」


 きっと僕も同じような顔になってるだろう。

 シルヴィアも、モジモジと自分の髪の毛をしきりにいじりながら、あんなにまっすぐ見つめていた視線も真横へとそらしていた。


「………………」


「………………」


 ううう……。沈黙が恥ずかしい。

 なにか言ってくれないかな……。


「その、なんだ……」


 シルヴィアがうつむかせていた顔を上げると、急に抱きついてきた。


「え!? あの、えっと……」


 周囲がざわめくのが聞こえる。

 そういえばまだ騎士団の中だったから、騎士の人たちが驚いたように抱き合う僕たちを見ていた。

 どこかからかライムの「あーっ!」という声も聞こえてきた。


 だけど僕は驚きすぎてなにもすることができなかった。

 シルヴィアの顔も真横に来ているため、どんな表情をしているかわからない。

 ただ頬に熱いくらいの熱を感じる。

 耳元で囁くような声が聞こえた。


「カイン殿のことを思うたびに胸がモヤモヤとして落ち着かなかった。ライム殿と仲良くしているのを見るたびに胸の奥がかき乱されて切なくなった。かわいいと一言いわれるだけで、その日は一日中幸せになれた。どうしてなのかカイン殿はわかるか?」


「ええっ!? いや、それは、その、えっと……」


「ふふ、カイン殿には簡単すぎたかな?

 だが私はわからなかった。なぜこんな気持ちになるのか、今ようやくわかったのだ」


 そうして、シルヴィアはいった。



「どうやら私の初恋はカイン殿のようだ」



 シルヴィアの告白に僕はどう答えたいいのかわからなかった。

 オロオロするばかりの僕のとなりで、微笑む気配が伝わってくる。


「ふふっ。笑ってしまうだろう。この年になって今更初恋など。

 だけど返事はいらない。かわりにこれだけは約束しよう」


 抱きしめていた僕を離すと、いつもは固く引き締められた表情をとびっきりの笑顔で輝かせた。


「貴方の一番となれるよう、立派な騎士になってみせる」


 そう宣言するシルヴィアは、誰よりも美しかった。

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