人と竜の新たな関係
急にいわれたエルはびっくりしたようだった。
「え? 竜の里を守るって、ずっとここにいないといけないの? それはちょっと退屈そうだなあ」
『世界の形に決まりはない。そうしたいと望むのなら、それが次の里の在り方ということだ』
「じいちゃんはいつも難しいことばかり言うからわからないよ」
『好きにしてよい、ということだ』
「じゃあもっと人間のところで遊びに行ってもいいの?」
『今までは人から隠れて過ごしていたが……。宝玉を手にした者が現れた以上、次はそういう時代なのだろう』
「あ、そうそう。ボクはエルって名前を付けてもらったから。今度からはそう呼んでね」
『そうか、名を得たか。始祖様も人より名を授かったと聞いている。それが新たな時代のはじまりだったとも。やはりそういうことか』
「あの、ちょっといいですか」
僕は気になったことがあったのでたずねてみることにした。
「その始祖様というのは、もしかして一番最初の竜のことですか?」
『そうだ、恩寵を賜りし者よ。始祖様は血肉を持たない、我らよりも純粋な「意志ある魔力」であったという。それが人と契りを交わしたことにより、今の我らのような肉体を得たそうだ』
「人と契りを交わしたというのは……」
『子を成した、ということだ』
「えっ!? それってつまりボクは人間とドラゴンの子供ってこと!?」
エルが驚きの声を上げる。
『直接始祖様の子であるわけではないが、双方の特性を備えているのは確かだ』
「じゃあ、ボクはどうやって生まれたの?」
『我はもう老いた。後継者が必要だ。そう願ったとき、お前が……エルが生まれた』
「ええっ、ボクってそういう感じだったの?」
『我らの本質は生命でなく魔力にある故に』
エルが困ったように首を傾げる。
「ううん、やっぱりじいちゃんのいうことは難しいよ……。じゃあボクたちと人間との交尾はできないの?」
『エルが望むのであればそれもいいだろう。子を欲しいと願えば自然と望む形になるはずだ。時が来ればわかるといったのは、そういう意味だ』
「……そっか。そうなんだ」
エルはなにかを納得したように笑みを浮かべた。
「わかったよ。ありがとうじいちゃん」
『礼には及ばぬ。次代に託すのが我の最後の役だからな』
それからもしばらくエルはおじいさんとなにかを話していた。
それにしても、衝撃の事実だったよね。
まさかエルダードラゴンが、始祖竜と人間のあいだに出来た子孫だったなんて。
始祖竜が人間と交わることで、今の肉体のある存在になったっていってたけど。
だとすると始祖竜っていうのはどんな存在なんだろう。
肉体を持たない「意志ある魔力」っていってたけど、どういう意味なのかちょっと想像がつかないよね。