虹の欠片にさわれる人間はいないであろう
「それでじいちゃん、虹の欠片をとりに来たんだけど、みんな触れないみたいなんだ。ボクは平気なんだけど」
『虹の石はかつて勇者と呼ばれる者のみが手にしていた』
おじいさんの声は小さくてしわがれていたけど、なぜだかはっきりと聞こえた。
『勇者とはすなわち神の寵愛を受けた者。人と神の関係が薄れた今の時代には、虹の石に触れることのできる人間はいないだろう』
「そうだったんだ。ボク初めて聞いたよ」
「カインさんでもダメなんですか?」
そういえば僕はまだ触ってなかったっけ。
「といっても、みんながダメなら僕でも同じだと思うけど……」
「そんなことないです! カインさんなら大丈夫です!」
ライムが何の根拠もなくそういってくれる。
僕にだけそんな特別な力があるなんて思えないけど、ライムにそういわれるとなんだかできそうな気がしてきちゃうよね。
「まあ試すだけならタダだし、やってみようか」
『そもそも虹とは神の世界への架け橋。触れることができるのは、神の世界へと入る資格を持つ者だけ。すなわち神と、神から力を与えられた者、そして管理者である我らだけである』
エルダードラゴンの老人が厳かに告げる。
『かつて二度のみ、人が虹の石に触れたことがあった。それは神から力を賜りし者の証。
一人は石に触れることで剣となり、世界を滅ぼそうと企む魔を退けた。
一人は石に触れることで盾となり、争いが続く人の世を太平に導いた。
虹の石が輝くとき。それは世界が大きく変わるとき……』
「あ、取れたよ」
『なんだと!?』
厳かな声が驚愕する。
すり抜けるはずだった虹の欠片は、僕の手の中で丸い宝玉に変わった。
「すごーい! さすがカインさんです!」
「やはりカイン殿は特別だな。もちろん私は信じていたが」
「よかった、これでキミたちが目的のものを持って帰れそうだね。ボクもうれしいよ」
「ライムのおかげだね」
「えっ、わたしですか?」
そういわれるなんて思ってもみなかったみたいで、ライムは驚いたようだった。
「ライムがいってくれたからね」
僕一人じゃ自分のことなんて信じられなかったけど、僕を信じてくれる人がいたから、やろうと思えたんだ。
その気持ちまで上手く表現できなかったけれど、ライムはデレデレと表情を崩していた。
「カインさんのお役に立てたのならとてもうれしいです。えへへ」
みんなそんな感じだったけど、エルダードラゴンのおじいさんだけはわなわなと全身を震わせていた。
『お、おお……。なんということだ……。二千年ぶりに虹を手にする者が現れたか……』
よぼよぼの目を驚愕に見開き、僕の手の中にある丸い虹の欠片を見つめる。
『七色の輝きを湛えし宝玉。異なる光をひとつにまとめる力。……新しき時代を、作るということか……』
「じいちゃんがそんなに驚くなんて珍しいね。どうしたの」
『我の役目は終わった。新しき時代が始まろうとしている。これからはお前達の時代。今から里の管理者はお前だ』
「えっ」
エルが驚きの声を上げた。




