果ての草原の果て
それからの旅は順調だった。
草原の奥に進むほどに敵が強くなっていったけど、ライムに加えてエルまで助けてくれるので、もう負けるはずがないからね。
不死とされる火の鳥や、六本腕のギガントジャイアントという、僕でもはじめて見るようなモンスターもいたけど、それらもあっさりと追い払ってしまったくらいだ。
「それにしても、あんなモンスターはじめて見たけど、いったいどうしたんだろう」
「なにかありましたか?」
悩む僕にライムが首を傾げる。
「うん、火の鳥は火山帯に住むといわれてるし、ギガントジャイアントなんて巨人の国にしかいないはずなんだ。果ての草原には様々なモンスターがいることで有名だけど、さすがにこれはちょっと異常かな」
「そうなんですか。でも安心してください! どんなモンスターが来ても私が全部追い払って見せますから!」
「ありがとう。いつもライムには助けてもらってばかりだね」
「いいえ! わたしこそカインさんに助けてもらってばかりなので、恩返しができて嬉しいです! このクエストも早く成功させましょう!」
「うん、そうだね」
この草原でなにかが起こってるのは間違いない。
それはなにかわからないけど、きっとあまりよくないことだろう。
変なことに巻き込まれる前に、このクエストを早く終わらせたいというのは僕も賛成だった。
それにしても、ライムがクエストを早く終わらせたいなんていうのは珍しい。
というか初めてじゃないかな。
ライムはなんでも楽しめるから、急かすようなことなんてしなかったし。
なにかよっぽど待ちきれないことでもあるのかな。
それから先は特に何事もなくすすみ、ついに目的の場所にたどり着いた。
「ここが、果ての草原の果てか……」
シルヴィアが感慨深そうにつぶやく。
果ての草原の一番奥、世界の果てともいわれることがある場所だ。
といってもなにかがあるわけじゃないんだけどね。
そこにあったのは、ぽつんとひとつ立てられただけの小さな看板だった。
それはだいぶ古くなっていて、古くかすれた文字で「此より先に踏み入ること能わず」と書かれている。
誰が作ったものかは不明だけど、一番最初に草原の不思議に気が付いた人が、こうして警告を残してくれたんだ。
果ての草原には不思議な力がかかっている。
ある一定以上より先に進もうとすると、なぜか同じ場所をぐるぐると回り続けちゃうんだ。
自然にできたものとは思えないから、きっと誰かが結界かなにかを張っていると思うんだけど、その理由は未だにわかっていないんだ。
神様が張った結界だとか、ここが世界の果てだとかいわれている。
だから「果ての草原」と呼ばれてるんだけど。
「それで虹の欠片というのはどこにあるのだ」
虹の根元でのみ採れるといわれる幻の鉱石。
それが虹の欠片だ。
だけど……。
「実はね、虹の欠片は存在しないんだ」
「……なんだと?」
シルヴィアが驚いたように聞き返した。
「存在しないとはどういう意味だ?」
「虹の根元に存在するといわれてるけど、草原の果てまで来ても虹の根元にはたどり着けないんだ」
「では、私たちはいったい何のためにここまで……」
「それはね、試験のためだよ」
僕はシルヴィアにそのことを伝えることにした。