浮気する男は全員死刑でいいと思わないか
朝食も終えて、朝日を浴びながら行軍を開始する騎士団と共に歩いていると、どこからかじとーっとした視線を感じた。
「………………」
なんだかライムが拗ねているときみたいな目つきでシルヴィアが僕を見てるんだけど……。
なにかしたのかなと思ったんだけど、心当たりがなにもない。
やがて僕の視線に気づいたらしいシルヴィアが近づいてきた。
「えっと、おはようシルヴィア」
「うむ。おはようカイン殿」
そう挨拶してくれたけど、その声はいつもよりも明らかに低くて、視線がまっすぐに僕の瞳を射抜いてくる。
ちょっと怒っているみたいだ。
「あの……どうしたの……?」
「ひとつカイン殿にたずねたいことがあるのだがいいだろうか」
「うん、もちろんだよ」
「浮気する男は全員死刑でいいと思わないか」
えっ、なにそれ怖い。
「ど、どうしたのいきなり?」
しかも質問というより、ほとんど決まってるかのような言い方だったけど……。
「どうもしない。ただカイン殿の意見を聞いただけだ」
「そ、そうなんだ……」
だとしたらどうして剣の柄に片手をおいてるんだろう。
まるで回答次第ではこの場で切って捨てるぞ的な雰囲気を感じる。
「……ええと。浮気は良くないと思うけど、死刑はちょっとやりすぎなんじゃないかな……」
シルヴィアは少しだけ眉をひそめた。
「む。そうだろうか。人にプロポーズするかのような言葉をささやいてその気にさせておきながら、裏では他の女にも手を出しあまつさえ子供まで作っているような人間のクズに人権などいらないのではないかと考えていたのだが」
なにそれ怖すぎる。
「ええっと、状況がよくわからないけど、その人にも事情があったんじゃないかな。とりあえず話を聞いてみたほうがいいと思うけど……」
なんにしろまずは話をすることが大切だ。
そう思っての言葉だったんだけど、シルヴィアはじいーーーっと僕のことを見つめていた。
「あの、どうしたの……?」
「むう……。表情にブレがない……。嘘をついているようには見えないな……。しかしだとしたら、昨日のことはいったい……」
ぶつぶつとなにかをつぶやきながら悩んでいたけど、やがてはっとした顔になった。
「まさか、カイン殿の国は一夫多妻制なのか!?」
いっぷたさいせい?
僕は聞いたことない言葉だな……。
よくわからないけど、シルヴィアはそれで納得したようだった。
「そうか……。そういうことだったのか……。それならば昨日のことも、私に対する思わせぶりな態度も納得だ……。
わかった。忙しいところを引き留めて悪かったな」
「僕はかまわないけど……」
「それから、その……」
赤くなった顔を僕のすぐそばにまで近づいてくると、耳元でささやた。
「私は二番目でもかまわないからな……。で、ではまたなっ!」
そう告げると足早に立ち去っていった。
二番目って、どういう意味だろう?




