夢の中での甘い記憶◇
エルに両親はいない。
そう聞いたとき、僕の胸に少しだけうずくものがあった。
なぜなら僕にも両親がいなかったから。
お父さんとお母さんがいて、僕のことをあやしている。
とてもかわいがってくれている。
だけどその顔はぼんやりとしてよく見えなかった。
僕はこれが夢ということを自覚している。
だって僕は親に捨てられたから。
スキルがない使えない子供だったから捨てられたところを、孤児院に拾われたんだ。
小さなころだったからよく覚えていない。
だからひとりでも悲しいとか感じたことはない。
昔からそうだったからね。
それが普通だと思っていたし、だからずっと一人で暮らしてきた。
それが長すぎたせいで、誰かと一緒にいたほうが違和感があったくらいなんだ。
でも、ここ最近の毎日はとても楽しい。
誰かと一緒に過ごすことがこんなにも楽しいと感じるなんて思わなかった。
もちろん今までずっと一人で生きてきていたわけじゃない。
いつも誰かに助けてもらっていた。
だから一人で生きてきたって思ってるわけじゃない。
でも、僕に「家族」はいないものだと思っていた。
でも今はライムがいて、もしかしたら家族というのはこういうものなのかもしれないと思っている。
家族というか、娘という感じだけど……。
でも、誰かと暮らすというのは、きっとこういう感じなんだろう。
それにしても、今さらなんでこんな夢なんかを見ているんだろう。
気にしていないと思っていただけで、本音ではやっぱり、両親がいない生活が寂しかったのかな。
寂しいとはいっても、両親への甘え方なんてわからないけど……。