大切なのは練習の繰り返し
夜風に当たりに来た私だったが、足は当然のようにカイン殿のいるテントへと向かっていた。
そっちの方が風が強いからとか、静かな方に向かいたかったとか、言い訳がなにも思いつかない。
無性にカイン殿に会いたくてたまらない。
別れてからまだ何時間も経っていないのに、もう寂しくなっているのだ。
「私は、やはり、カイン殿のことを……」
いくら恋愛ごとに疎いとはいえ、さすがに薄々感づいている。
それに、カイン殿も私にプロポーズしてきたし……。
もちろんまだ騎士として未熟な私が家庭を持つなど早すぎるだろう。
でも、いつかはそういう日が来るのだ。
跡取りを作るためにも、カイン殿と……。
「~~~~~!!」
頭に浮かんだ妄想を振り払う。
休憩中とはいえ騎士団を率いる身だ。
このような破廉恥でふしだらな想像など許されることではない。
なのに……。
嫌ではなくなっている自分がいるのも感じている。
恥ずべきはずの行為なのに、受け入れてしまっている自分がいるのだ。
「私はいったいどうしてしまったというのだ……」
夜風が高ぶった身体に心地いい。
結果的には外に出て正解だったのかもしれない。
歩きながら、私は昨夜のことを思い出していた。
昨夜は、その、カイン殿に色々してもらったものの、私が一人で満足してしまったので、子作りにまでは至らなかった。
も、もちろん、まだそのようなことは早いのだから問題はない。うむ。だから全然気にしていないし、残念にも思っていない。本当だ。
しかし、なんでも聞いたところに寄れば、そういう行為をするには、男が女を悦ばせるだけではなく、女が男を悦ばせることも必要だという。
そのためにすることは……。
「うううう……」
考えただけで恥ずかしくなってくる。
そんなことをするなんてとてもできない。
でも……、もしカイン殿に求められたら……。
もし私が拒絶して、それでカイン殿に嫌われてしまったら……。
「ううううううううう……」
想像しただけで胸が苦しくなる。
にじんだ涙が夜風に冷やされて熱を奪う。
カイン殿に嫌われるなんて、そんなことになったらきっととても耐えられない。
そのためには……。
「やはり練習しかない。うむ」
いきなり本番をするから緊張してしまうのだ。
少しずつ慣れていけば、いざ本番となったときにも慌てずに対処できるというものだ。
そう考えれば騎士の修行にも似ている。
いきなり実戦に放り込まれて、騎士として戦える者はいない。
基礎訓練を何度も何度も繰り返して、騎士としての動きを体に覚え込ませるのだ。
それはきっとなんにでも応用できる考えだろう。
勉強も、その他の稽古も、大切なのは不断の努力だ。
ならば寝技だって同じはず。
カイン殿と何度も繰り返し練習して、動きを身体に……身体に……。
「身体に……覚え込まされちゃうのかな///」
顔が熱くなっているのがわかる。
なのに頬がゆるんでいるのもわかる。
夜風なんて全然役に立たなかった。
この熱を冷ましてくれるのは、きっと一人しかいない。
向かう足が弾んだ音を立てる。
やがて見えてきたテントにはまだ明かりがついていた。
なにかを話す声が聞こえる。
「そういえばあのドラゴンもカイン殿と一緒にいるのだったな……」
思い出して、私の思考が若干冷静になる。
私は一人でテントにいるのに、どうしてあのドラゴンごときが一緒にいるのだろう。
予備のテントがないから緊急の処置だと担当の騎士がいっていたが、だったら私のテントを貸せばいいのではないだろうか。
そのかわりに私はカイン殿のテントに行けばいい。
なんだ。名案ではないか。さっそく今日から実行してもいいくらいだ。
やがてテントの中の様子がおぼろげながらにわかってくる。
どうやら三人でベッドに寝ているようだ。
ベッドはひとつしかないからそれは仕方がないだろう。
だが、てっきりいつものように激しくしていると思ったのだが、今日はずいぶんと静かたっだ。
まさか終わってしまったのだろうか。
それともなにか別の理由が……。
そう思っているところに、衝撃の言葉が聞こえてきた。
「なんだか子供ができたみたいだね」
「……っ!」
も、もう妊娠してしまったというのか!?




