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エルの思い

 ライムとエルが僕を挟んで言い合っている。

 まあ怒っているのはライムだけな気もするけど。

 やがてライムが「雄がほしければ勝ち取るものだ」と言いだし、エルも「それもそうだね」と言いだしたため、さすがに止めることにした。


「ケンカはダメだよ二人とも」


「はい……。ごめんなさいカインさん」


 自分でもやり過ぎたと感じていたのか、ライムが落ち込んだようにうなずいた。


「そうだね。こんなところで暴れたら他の人間に迷惑がかかっちゃうもんね。ごめんね」


 エルもわかってくれたみたいだった。


「それにしても、どうしてエルはそんなに、その、人間の交尾に興味があるの?」


 興味があるという点ではライムもそうなんだけど、エルの場合はちょっと理由が違う気がした。

 ショートカットの顔が少しだけ笑みを浮かべる。


「ボクはね、キミたち人間とはちがって、純粋な生命じゃないんだ」


「生命じゃない? それってどういう意味なの」


「詳しくはボクもわからないんだけど、じいちゃんがいうには、ボクたちは意志を持った魔力のようなものなんだって。

 生命じゃないから交尾の必要もないし、雌雄の区別もない。ボクがどうやって生まれたのかもわからないんだ。じいちゃんにきいても、その時がくればわかるとしか教えてくれなくて。

 だから、自分で探すことにしたんだよ」


「そうだったんだね」


 それで交尾に興味を持っていたんだ。


「きっとボクが人間に興味があるのは、それが理由だと思うんだ。

 ボクに両親はいないし、そもそも家族という考え方もない。じいちゃんはいるけど、ボクが勝手にそう呼んでるだけで、人間でいうところの祖父ってわけじゃないし」


「そうなの? てっきりおじいさんなのかと思ってだけど」


「ボクが生まれるずっと前からいるからヨボヨボなんだ。だからじいちゃんって呼んでるだけ。

 そもそもボクたちエルダードラゴンは、ボクとじいちゃんしかいないし」


「そっか……エルにも家族がいなかったんだね。だから家族がほしかったんだ」


「うん。じいちゃんはそういう感じじゃないし、他のモンスターや人間はボクを見るだけで逃げちゃうから」


 強いモンスターほど相手の力を感じる能力も高くなるからね。

 シルヴィアもエルを見ただけでエルダードラゴンだと見抜いていたし。

 だけどレベル1の僕にはエルの力はほとんど感じられない。

 目の前にいるのは、ちょっとボーイッシュなかわいい一人の女の子だ。


「だからキミと出会えて本当に良かったよ」


 そういって小さく微笑む。

 その笑顔に僕は思わず見とれてしまった。

 やがてエルの目がウトウトしはじめる。


「なんだか眠くなってきちゃったな。人間の姿にはまだ慣れてないから、魔力を使い過ぎちゃったみたい」


「大丈夫? あんまり無理はしない方がいいよ」


「ありがとう、でも大丈夫。寝ればきっと回復すると思うから」


 やがて目を閉じる。

 それでも口元は笑みの形のままだった。


「ふふ、眠いってのはこういう感覚なんだ……。ドラゴンの姿だと眠る必要なんてないから、こういうのも新鮮で楽しいな……」


 最後にそうつぶやくと、静かに寝息を立てはじめた。

 その顔は生物界最強ともいわれるエルダードラゴンとはとても思えない、あどけないものだった。

 そういえば、エルはドラゴンの中でもまだ幼いっていってたっけ。

 ドラゴンの幼生が生まれてから何年くらいをいうのかはわからないけど……。


「なんだか、子供ができたみたいだね」


「いくらカインさんとの子供でも、こんなに生意気な子供はいらないです」


 ライムが頬を膨らませる。

 静かに眠るエルの頭をなでてあげると、少し嬉しそうな寝息を響かせた。

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