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人間のことをもっと知りたいんだ

「やっぱり人間は面白いね」


 エルはすっかり今の生活を気に入ってるみたいだった。


「はじめて人間の目で世界を見て、人間の体で人間の食べ物を食べたよ。どれも初めての経験で興味深かった。キミのおかげだよ。ありがとう」


「それは僕のおかげじゃなくて、エルが人間の姿になったからじゃないかな。むしろ僕こそ何もしてないけど」


「そんなことはないよ。ボクができるのは人間の姿になることだけだから。一人じゃご飯もろくに食べられないし、こうして人間の仲間と認められなかったはずだし」


 それは確かにそうかもしれない。


「だから、キミにはもっと人間のことを教えてほしいんだ」


「うん、もちろんだよ。僕もドラゴンのことが知れてうれしいしね」


「……うぬぬぬぬ~」


 和やかに話す僕とエルの後ろで、ライムだけが一人うなっている。


 僕たちは今テントへと向かって歩いていた。

 急にエルが仲間になったため、予備のテントも間に合わなくて、それで急遽僕のテントで寝泊まりすることになったんだ。

 僕としては色々問題があると思ったんだけど、当のエルがそれでいいよと言ってしまったため、一緒に寝ることになってしまった。


「ええっと、ベッドは二人用だから、それはライムとエルで使って。僕は寝袋を使って地面で寝るから」


 さすがに女の子を地面で寝させるなんてわけにはいかない。

 ここは男の僕が率先してそういうべきだよね。

 うん。そうに決まってる。


 と、思ったんだけど、もちろんライムも、そしてエルも納得しなかった。


「だめですよカインさん! ずっと一緒に寝るって約束です!」


「そんな約束したかな……」


「そうだよ。ボクになんでも教えてくれるって約束だったじゃないか」


「それは確かに約束したけど……」


 結局二人に押し切られてひとつのベッドに三人で寝ることになった。

 僕が真ん中で横になり、二人に挟まれる形になる。

 二人用のベッドに三人が寝ているんだから当然とても狭い。


「いつもよりカインさんを感じられてとてもうれしいですね」


 嬉しそうにライムが抱きついてくる。

 恥ずかしくなってつい反対側に顔をそらすと、すぐ目の前にエルの顔があった。


「人間はこんなに密着して眠るんだね」


「いや、今日は特別というか、普通は一人ずつで眠るんだけど……」


「そうなんだ。やっぱり面白いね」


 まるで恥ずかしがるそぶりもなく、当たり前のようにさらに顔を近づけてたずねてくる。


「ボク知ってるよ。人間は夜に交尾するんだよね? 出来ればその方法もボクに教えてくれないかな」


「ええっ!? お、教えてといわれても……」


「でも、少しは聞いたことあるんだ。人間が交尾するときはお互い裸になって、肌と肌を重ねるんでしょ? でもどういう意味なのかよくわからないんだ。それで教えてほしいんだけど」


 エルがさらに顔を近づけてくる。

 思わず僕がドキッとしてしまうと、エルが「あれ」という顔になってさらに近づいてくる。


「ボクが近づくと興奮したね? やっぱりこうやってくっつくのがいいのかな。それじゃあこれだとどうかな」


 そういって、今度は僕の腕に抱きついてきた。

 ライムほどじゃないけどエルだってちゃんと女の子だ。

 そんなにくっつかれると、いろいろと恥ずかしい。


「あ、あの、エル、そんなにくっつかれると……」


「ボクは人間の感情がなんとなくわかるから、キミが興奮してるのもわかるよ。ねえ、キミもしたいんでしょ? このままボクと交尾をして……」


「そんなのダメですー!」


 ライムが僕の上を乗り越えて、エルのあいだに割りこんできた。

 エルが不思議そうに聞き返す。


「どうしてダメなの?」


「カインさんとはわたしが最初に会ったんです! だからわたしとしか交尾しちゃダメなんです!」


「どうして交尾しちゃダメなの?」


「どうしてって……それは……えっと」


 さすがのライムもエルのストレートな疑問に即答はできなかった。


「夫婦にはもちろんキミたちがなればいい。それをジャマするつもりはないよ。ボクは子供がほしいだけ。優秀なオスの遺伝子を独り占めする方が生命として不自然だよね」


 エルが冷静に反論する。

 理屈の上ではそうなのかもしれないけど……。

 というか真顔ですごいこといってないかな……。


「ううう~~~!」


 ライムが上手く言い返せずに悔しそうに唸っている。


「ダメなんです! なんでかわからないけどとにかくダメなんです! カインさんが他の雌と交尾してるところは見たくないんです!!」


「見るのは嫌なら後ろを向いててよ。そのあいだにボクたちが交尾してるから」


「それもダメです!!」

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