シルヴィアの煩悶
カイン殿がかわいいといってくれた。
魅力的だとも言ってくれた。
思い返すだけで頬がゆるむ。
それに……。
「カイン殿に、好きだといわれてしまった……」
顔がにやけるのを止められない。
少しだけ誘導尋問だった気もするが、好きだといってくれた事実に変わりはない。
嫌いだったりしたらあんなこと言わないだろう。
つまり、カイン殿は私のことが本当に好きなのだ。
「~~~~~!!!!!」
枕に顔をうずめて、声にならない声を上げる。
足がバタバタと動いて、罪もないベッドを何度も叩いてしまう。
自分でも何がしたいのかわからない。
なんの生産性もない無意味な行為だ。
それでもこうせずにはいられない。
なんなのだ。
なんなのだこれは。
居ても立っても居られない衝動で心が舞い上がっている。
こんな感情は今まで経験したことがない。
今の顔はきっと誰にも見せられないだろう。
ゆるみきった心では、とても皆を率いていくことなどできはしない。
しっかりと身を引き締めねば。
どうにか心を静めて冷静になる。
そのおかげでだんだんとまともな思考が戻ってきた。
それにしても……。
あんな歯が浮くようなセリフを簡単にいえてしまうなんて。
カイン殿は確かに頼りになるときは頼りになるが、普段はどちらかというと控えめな性格だと思っていたのだが。
そういえば噂に聞いたことがある。
男が女性を誘うときには、キザなセリフを述べるものだと。
さっきのカイン殿がまさにそうだったのではないか。
ということは……。
「もしかして……これがプロポーズというやつなのでは!?」
そそそんな浮ついたこと自分に許されるはずがない。
しかし……。
カイン殿は生まれこそ平民かもしれないが、貴族と平民のあいだでの婚姻に前例がないわけではない。
アルフォード様が推薦するほどの人物となれば、一定の理解も得られよう。
それになにより、カイン殿は騎士の理想を体現している。
夫とするには十分すぎるのではないだろうか。
そもそも、私のような頑固で融通の効かない女など、ほとんどの男は敬遠するだろう。
こんな私にまで優しくしてくれる人など、きっと数えるほどしかいないに違いない。
いつかは自分も生涯の伴侶を持つことになるだろう。
オルベリク家の長女として、跡取りをもうけることが必要になる。
それはいつかはしなければならないことだ。
ならば、それが今ではいけないという理由は、どこにもないのではないだろうか……。
それはつまり、私がカイン殿と……。
「~~~~~~~///」
顔が熱くなっているのが自分でもわかる。
隠すように枕にうずめ、じっとしていられない足が何度もベッドをたたく。
熱が体から消えていかない。
それどころかますます勢いを増すばかりだ。
このままではよくない。
火照った体を冷まそうと、私は夜風を浴びるために外へ向かった。