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シルヴィア隊長の憂鬱

 全員に配給が終わった後も、シルヴィアが残ってくれた。


「うちの部下たちが迷惑をかけたみたいですまなかったな」


「僕は気にしてないからいいよ」


「カイン殿には一度話したかもしれないが、私の部隊は結成して間もなくてな。それで少し、まだ騎士としての意識が低い者が多いのだ」


「でも楽しそうだよね」


 騎士の人は堅いというイメージがあるけど、シルヴィアの隊はみんな楽しそうだった。

 それが騎士団としていいことなのかはわからないけど、僕はそういう方が好きなんだよね。


「実は私の部隊がこういう雰囲気なのには理由があってな。貴族の子供ばかりが集められているのだ。騎士の称号はほしい、でも本気で戦ったり厳しい修行はしたくない。そういう者ばかりが集まっているのだ。かく言う私もオルベリク家の長女だ。私のような若輩者が隊長を任されたのもそういうわけがあってのことなのだ」


「そうだったんだ。それでずいぶん雰囲気が明るかったんだね」


「伝統的な騎士にはない自由な気風が売りといえば聞こえはいいが、実際は中途半端な者が集まっただけ。隊長を任されたといっても実際はこの程度。『自由の風』団の実体はこんなものなのだ。

 だからこそ、この任務は成功させたい。アルフォード様のような精鋭部隊でなくてもいい。私たちには私たちにあった騎士道がある。それを示すだけでも、きっと周りの目は変わるだろうからな。

 だから休憩の時にまで口うるさくいうつもりはないのだ。も、もちろん、先ほどのカイン殿に対する態度はさすがに見過ごせないのだがっ」


 急に言い訳するような口調になった後、わざとらしく咳払いした。


「ただ、部下たちみんなには騎士としての心構えを養ってほしいのだ。

 私たちは、貴族の家に生まれたから、という理由だけで騎士団に入れた未熟者かもしれない。それでも、私たちは騎士なのだ。それを実感できれば、もっと堂々と胸を張って歩けるようになるだろう」


 そう語るシルヴィアの声は真剣で、だからこそ本気で思っているんだと感じることができた。


「シルヴィアはやっぱりすごい人だね」


「そんなお世辞はやめてくれ。口だけが立派でも、私は隊長としてなにもできていない。カイン殿の方がよほど隊長らしいことをしている。隊を率いることもできるし、今日のように全体の体調を気遣うこともできる。それに比べて私は……」


「そんなことないよ」


 落ち込むシルヴィアに僕は本心からいった。


「シルヴィアの方が隊長に向いてるよ」


「そうだろうか。むしろ私は皆に嫌われているのではないかと思うのだが……」


「隊長ー! いつまでカインさんとイチャイチャしているんですかー!」

「サボってないで早く仕事してくださーい!」


「いっ……イチャイチャなどしていない! お前たちの失礼な態度を代わりに謝っているのだろうが!」


 少し離れたところから響いてきた女性騎士の声に、シルヴィアが怒鳴り返す。

 だけど向こうは特に気にした様子はなかった。


「カインさーん! ライムさんやエルさんもかわいいと思いますけど、うちの隊長もなかなかだと思うので、もしよければもらってあげてくださいね!」


「ななな、なにを言ってるんだお前たちは!?」


 まだからかいの声を上げる女性騎士を追い払うと、慌てて僕の方を振り向いた。


「い、今のはもちろん冗談だからな! 本気にするんじゃないぞ!?」


「う、うん。もちろんわかってるよ」


 僕なんかとシルヴィアが釣り合うわけないんだしね。


「……。そうか、わかってるのか……」


 なぜだか、がっくりと落ち込んでいた。


「……さっきのを見ても分かる通り、やはり私は皆をまとめる器ではないのだ」


 うーん、そうかなあ。

 むしろ慕われてるように見えたけど……。

 こういうのは自分じゃ気づかないものなのかもしれないね。


「でも、アルフォードさんはシルヴィアのことを高く評価していると思うよ」


「そうだろうか……。思えばカイン殿を紹介してくれたのも、私が頼りないからなのでは……」


「そんなことはないよ。それは今回のクエストを任せたということからも分かる。今詳しくは言えないけど、虹の欠片があるところまで行けば、シルヴィアにもわかると思うよ」


「……。そうか。カイン殿がそういうならそうなんだろうな。すまない。私が弱気なばっかりに、余計な心配をかけてしまったようだな」


「ううん、大丈夫だよ。助け合うために僕がいるんだし。僕としてはシルヴィアはもう十分立派な隊長だと思うけど、僕にも手伝えることがあったらなんでも言ってね」


「なんでも!? また何でもしてくれるのか!?」


 シルヴィアが鼻息荒く勢い込んできた。


「も、もちろん、なんでもといっても、僕にできることなら、だけど」


「あ、ああ。もちろんその通りだ。なんでもといわれてつい興奮してしまって……だから興奮などしていないからな!?」


 なんだろう、やっぱり興奮してたのかな。

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