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まるで仲のいい夫婦のように

「えっと、じゃあ……」


 前はライムを後ろから抱きしめるような格好だったけど、さすがにそれだと危ないので、横に並ぶ体勢になる。

 そのまま調理器具を持つライムの手の上に僕の手を重ねるようにして握った。

 あたたかくて柔らかな手のひらの感触に、それ以外の感覚が全部吹っ飛んでしまった。


 周囲のざわめきが広がったような気がする。

 どこかでシルヴィアの「なっ!?」と叫ぶような声も聞こえた気がしたけど、それを確認する精神的余裕は僕にはなかった。

 となりのライムは表情がゆるみっぱなしだった。


「料理ってあったかくて、ふわふわーってして、とっても楽しいですね」


 そんな感じでずっとデレデレしている。

 その楽しさは料理の楽しさじゃない気がするけど……。


「人間はこうやって料理をするんだね」


 いつのまにかエルが僕たちの料理を眺めていた。

 ライムが警戒するように表情を引き締める。


「むっ、なんですか。カインさんはわたしと料理してるんです。ドラゴンの出番はありませんよ」


「確かに人間の料理に興味はあるけど、今日のところは遠慮しておくよ」


 そういって、微笑むようなあたたかいまなざしで僕らを眺めた。


「ボクにはまだよくわからないけど、きっと今のキミたちは人間の言葉で『仲のいい夫婦』っていうんだろうね」


「えっ、ふ、夫婦……?」


 いきなり変なことをいわれてつい戸惑ってしまう。

 となりのライムはさっきよりもさらにデレデレの笑顔になっていた。


「やっぱりそう見えちゃいますか~?

 なんだ、エルも話の分かるドラゴンだったんですね」


 ついさっきまで警戒していたのが嘘のような変わり身の早さだった。


「だからしばらくは二人のことを見させてよ」


「はい、いっぱいわたしとカインさんの仲のいいところを見るといいですよ♪」


「ええ……。それはちょっと恥ずかしいけどなあ……」


 ニッコニコの笑顔で一緒に鍋をかき混ぜるライムと、それをどことなく楽しそうに眺めるエル。

 僕はどうにもできなくて、ただずっと鍋をかき混ぜ続けていた。



 それにしても、と思う。

 ライムはずいぶんと感情豊かになった。

 最初から自分の感情に素直で表情豊かだったけど、なにをするにしても僕のいうことに肯定的だった。


 でも今は拗ねたり、怒ったり、恥ずかしがったりする。

 僕のいうことに反対して、自分のしたいことを優先することもある。

 自分の感情に素直という点では変わらないのかもしれないけど、それは今までにはなかった感情だ。

 いうなれば、より人間らしくなった、といえるかもしれない。

 ライムもずっと人間の姿でいるから、だんだんと人間に近づいているのかもしれないね。

 それがいいことなのか悪いことなのか、僕にはわからないけど。


「カインさんと一緒の料理、楽しいですね!」


 そういって笑うライムを見ていると、不思議と僕も笑顔になってしまうんだ。

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