シチュー作りの極意
味見のためにスープを飲み干したライムは、しばらくはなにかを我慢するようにぎゅっと目を閉じていた。
きっととんでもない味が襲ってくると思っていたんだろう。
でもすぐに目を見開いた。
「あれっ、すっごく美味しいです!?」
「それならよかった」
それなりに上手くできてるはずと思ってはいたけど、この量で料理するのは初めてだったからね。
やっぱり味見してもらって良かった。
「これ本当にアレが入ってるんですか? 全然わからないくらいすっごく美味しいです! さすがカインさんです!」
「肉や野菜を煮込んだスープに、保存食を細かく刻んで溶かしてあるからね。そのおかげだよ」
「紙粘土みたい」といわれる食感も、スープに溶かすことでちょうどいい感じのとろみになる。
そのおかげで、味も見た目もシチューにしか感じられないものになるんだ。
保存食は味こそ食べにくいけど、栄養はたくさんあるからね。
使わないなんてもったいない。
ニアも保存食を食べるときは水でふやかしてから食べていたけど、それの応用みたいなものだね。
「やっぱりカインさんはすごいです」
「そんなことないよ。これくらいならライムもすぐにできるようになるよ」
実際、今回はなにも難しいことはしてない。
材料を集めて、全部まとめて煮込んでいるだけだ。
レシピさえ知ってれば誰でもできる。
「それじゃあわたしでもできるようになるまで、カインさんと一緒に料理のお勉強をしないとですね」
「うん、料理のことならなんでも聞いて。僕に教えられることならなんでも教えるから」
「えっと、それじゃあ、さっそく教えてもらってもいいですか」
「うん、もちろんだよ。なにが知りたいの」
「鍋をかき混ぜる方法を教えてほしいんです」
「かき混ぜる方法……?」
教えるもなにもただかき混ぜるだけだし、実際にライムは十分上手くできていると思うけど。
そう思っていたら、ライムが少しだけはにかむような表情になった。
「初めて料理を教えてもらった時みたいに、できれば、一緒にしたいんです」
「あっ……」
初めてライムに料理を教えたときといえば、鍋を扱う方法を教えるために、僕がライムの後ろから手を伸ばして、ほとんど手をつなぐみたいな格好でやったんだっけ。
「いや、あっと、それは、えっと……」
思わずしどろもどろになってしまったけど、ライムは変わらずにじーっと僕のことを見つめていた。
どことなく陰っているように見えるのは、きっと僕が迷っているからだろう。
断られるかもしれないと思って、少し落ち込んだ表情になっている。
うう……。そんな目で見られると断りにくい……。
それにここは騎士団の宿営地のど真ん中だ。
料理が完成間近ということもあって、匂いにつられて注目を集めてしまっている。
大勢の人に見られている中で手をつなぎながらそんなことをするのは、かなり勇気が必要というか……。
でも、なんでも教えるといったのは僕なんだから、約束は守らないといけないし……。
「わかったよ……。それじゃあ一緒にやろうか」
「……ッ!!」
落ち込んでいた顔がぱあっと輝く。
「はい、ありがとうございますカインさん!」