カインの料理教室
「カイン殿が料理を作ってくれるのか?」
僕の提案にシルヴィアが驚いていた。
「うん。騎士団のみんなも疲れてるみたいだから。元気の出る料理を食べてもらおうと思って」
「私だけでなく、騎士団全体のことまで見ているなんて……。さすがはカイン殿だな。しかし、騎士団全員の分となると、かなりの量になるが……」
「うん、それは大丈夫。ライムとエルにも手伝ってもらったから、材料は十分集まってるよ」
エルはこのあたりに詳しいといっていただけあって、飲み水もすぐに確保してくれたし、ライムも鼻がいいから匂いで探していた食材をすぐに見つけてくれた。
それに二人とも力が強いから、一度にたくさん運べるしね。
そういうわけでみんなの分の料理を作ることになった。
一度にたくさん作る必要があるから、凝ったものじゃなくて、材料を一度に煮込んで作るだけの簡単なものなんだけど。
スミスさんに作ってもらった小さな鍋しかなかったから、たくさんの量を一度に作るのだけが大変かなと思ったんだけど、騎士団で大型の調理用具を持ってたから借りることにしたんだ。
用意として持ってはいたみたい。
シルヴィアの騎士団は保存食を持ってきていたから、使う機会はなかったみたいなんだけど。
大鍋に材料を入れ、火にかけてかき混ぜる。
これだけでいいから楽だよね。
そのうちにやがていい匂いがたちはじめ、スープにもとろみが生まれてきた。
やがてフラフラとライムが引き寄せられてきた。
「いい匂いがしてきました~」
「そうだライム、ちょっと手伝ってくれる」
「はい、なんですか?」
「ライムに料理を教える約束だったからね。今日はこのスープを一緒に作ろうか」
「……! はい!」
満面の笑みで駆け寄ってくる。
「カインさんと一緒の料理、楽しみです」
「そんなに大したことはしないけどね」
つい苦笑してしまう。
今回は本当に簡単だからね。
大鍋をかき混ぜるのに使っていた専用の道具を渡す。
木の棒を削って先端を平らな形状にしたものだ。
「それじゃあこれで鍋をかき混ぜてくれる?」
「はい! ええと、こうですか?」
「そうそう。うまいねライム」
「えへへ~。カインさんの教え方がうまいからですよ~」
鍋をかき混ぜるのに教え方もなにもないと思うけど。
ただ、大きい鍋をかき混ぜるのは結構な重労働なんだけど、ライムはそのあたりぜんぜん苦にならないみたいだ。
そうしてしばらく混ぜるうちに、やがてスープのほうに変化がでてきた。
「なんかだんだんトロトロしてきました」
「ならもう少しで完成だね」
「水と野菜や肉を入れただけでかき混ぜてるだけなのに、こんなに変わるなんて面白いですね」
「普通ならとろみは付かないんだけどね。今回は細かく刻んだ保存食を入れてあるからね」
「えっ!?」
ライムが驚きの声を上げた。
「保存食って、アレですよね……?」
「うん。前にニアから少しもらったやつだね」
「うう……。アレが、この中に……」
信じられない、といった顔で自分がかき混ぜる鍋の中身を凝視する。
なにしろアレはすごい味だったからね。
「栄養のある紙粘土」とまで呼ばれてるくらいで、なんでも食べるライムでさえひとつ食べるのが精一杯だったくらいだ。
でも、今回はちゃんと工夫してある。
「じゃあちょっと味見してみる?」
「ええっ!?」
ライムが飛び上がりそうなくらいに驚いた。
だけどすぐに、覚悟を決めるように表情を引き締めた。
「カインさんが作ってくれたものならなんでも食べます!」
「一応僕とライムで作ったことになるけど……」
「あっ、そうでした。うう……、アレが、この中に……」
よっぽどあの時の味がトラウマだったみたいだね。
僕はスープといくつかの具材を少しだけすくい取ると、小皿に移してライムに手渡した。
「はい、じゃあこれの味見をしてくれる?」
受け取ったライムは、小皿の中身をじっと見つめた。
「カインさんが作ったものだから美味しいに決まってる……カインさんが作ったものだから美味しいに決まってる……カインさんが作ったものだから美味しいに決まってる……」
なにやら呪文のように繰り返している。
やがて意を決したように、スープを一口で一気に飲み込んだ。