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キミの名前は

 ライムに詳しい話を聞こうとしていたドラゴンだったけど、シルヴィアたち騎士の人たちが遠巻きにしたまま近づいてこようとしなかった。

 僕たちはこのドラゴンに会うのは初めてじゃないから平気だけど、慣れてない人からしたら怖いかもしれないね。


 そういう話をドラゴンにしたら、


「あっ、そういえばじいちゃんに教えてもらったんだった」


「教えてもらった?」


「うん。見てて」


 そういうと、急にドラゴンの姿が光り輝き、急速に縮んでいく。

 僕たちと同じくらいの大きさにまでなったところで光が消えた。


「どう? ボク人間に見えるかな?」


 そういってショートカット姿の女の子が現れた。

 中性的な顔立ちと、ボーイッシュな格好のせいでわかりにくいけど、どうやら女の子のようだ。


「あのあとじいちゃんに頼んで人化の術を教えてもらったんだ」


「そうなんだ……。すごいね……。ドラゴンの人化の術を、こんな目の前で見られる日が来るなんて……」


 僕は思わず感動してしまった。

 伝説には、竜が人の姿となって勇者に助言を与える場面が何度も出てくる。

 だけどそれは長い年月のあいだにまちがって伝わった神話であり、実際に竜が人間の姿になることはないとされてきた。

 でもそれはまちがっていたことが、今目の前で証明されたんだ。


「それにしても、女の子だったんだね」


「ああ、この姿のこと? ボクたちドラゴンには、人間のような雌雄の区別はないんだ。だからどっちにも見えるような姿になるんだけど。

 それでも人間の雌に姿が寄ったのは、たぶんキミに興味があるからじゃないかな」


「え? 僕に?」


「ボクと話をしても唯一驚かない人間だからね。キミと話をするために人化の術を覚えたようなものだし」


「そうなんだ。それは光栄だね」


 そこでふと気がつく。


「そういえば君の名前はなんていうの」


 会話をするのなら、いつまでもドラゴンと呼ぶわけにはいかない。

 そこでそのドラゴンも気がついたようだった。


「そういえば人間は名前っていうのをもってるんだっけ」


「もしかしてドラゴンには名前がないの?」


「うん。ボクたちは魔力で相手を感知するから。音で個体を識別する必要がないんだ。それにこうやって言葉で会話することもないし」


「言葉もないってことは、どうやってコミュニケーションするの?」


 僕がたずねると、ショートカットの頭が考えるように斜めに傾いた。

 そんな仕草がちょっとかわいい。


「うーん。なんていえばいいかなあ……。人間の言葉だとテレパシーが一番近いかも」


 そういえばライムもスライムの姿の時はテレパシーのようなものが使えるといっていたっけ。


「それにしても言葉って面白いね。非効率で、不確実で、個体差も大きい。こんなものでキミたちは毎日暮らしてるんだよね。やっぱり人間っておもしろいな」


「ドラゴンのテレパシーに比べたら、言葉はすごく不便に感じるかもしれないね」


 思うだけですべて伝わるテレパシーとは違い、思ってることを口にしなければ言葉では伝えられない。

 口にしたからといって全部伝わるわけでもないし……。


「それじゃあ名前がないのはますます不便だね」


「だったらボクの名前はキミが付けてよ」


「僕なんかがつけてもいいの?」


「もちろんだよ。キミに呼ばれるための名前なんだから、キミが呼びやすいのにしてくれればいいよ」


「うーん。そうだなあ」


 僕は少し考えてからいった。


「それじゃあエルなんてどうかな。エルダードラゴンから取った名前なんだけど」


「エル……」


 なにかを確かめるようにその名前を口にする。


「もう一度その名前を呼んでもらってもいいかな?」


「えっと、エル。これでいいかな?」


「……うん。この気持ちを言葉で説明するのは難しいけど、うん、少しだけ人間に近づけた気がするよ。名前を呼ばれるのって、思ってたよりも悪くない気分なんだね。ありがとう」


 そういってふわりと微笑んだ。

 急に浮かんだ女の子らしい表情に思わずドキリとして、つい目をそらしてしまう。


「そ、そう。それはよかったよ」


「はいはいはい! カインさんに名前を付けてもらったのはわたしのほうが先なんですからね!」


 ライムが対抗するように声を上げる。


「そうなんだ。キミの名前はなんていうの?」


「ゴールデンスライムのライムです!」


 今思ったんだけど、もしかして僕って名前を付けるセンスないのかな?

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