進撃の噂
次の日は、朝早くから出発した。
シルヴィアがすごく元気になっていて、やる気に満ちあふれていたんだ。
昨日のマッサージが効いたみたいだね。良かった。
でも、朝にあいさつしたら、僕と目が合うと顔を赤くして逃げるように去っていっちゃった。
いつもなら必ずあいさつを返してくれたのに……。
いったいどうしたんだろう。
実は昨夜は一心不乱にマッサージをしていたおかげで、記憶が曖昧なんだ。
だからもしかしたら僕がなにか失礼なことをしてしまったのかもしれない。
あとで昨日のことについて詳しく聞いてみようかな。
考え込んでいる僕の横で、ライムがシルヴィアに向けて鋭い視線を向けていた。
「………………あの反応、あやしいですね。敵となる前に排除したほうが……」
物騒なことをつぶやいている。
大自然の中で野生の血がまた騒いでるのかなあ。
意気揚々と出発した騎士団だったけど、その歩みは必ずしも軽快という訳じゃなかった。
それどころかむしろ日に日に重くなっているように感じられる。
やっぱり疲れがたまってるみたいだ。
騎士たちのささやき声も聞こえてくる。
「なんか草原の奥にいくほど敵が強くなってないか……」
「昨日はカインさんのおかげで助かったが、次も上手くいくとは限らないぞ……」
「グリフォンですら手に負えなかったのに、それ以上強い敵がいるっていうのか?」
「さあな……。しかしいるとしたら、それはもう巨人族とかなんじゃないか……」
「依然暴走した巨人を討伐したときは、一人の巨人相手に百人規模のを形成したと聞いたことがあるぞ。しかも、それでかろうじて倒せたというじゃないか」
「そんなの……結成したばかりの俺たちなんかじゃ……」
弱気な声が聞こえてくる。
巨人族といえば太古より現存する強力なモンスターの一種だ。
竜種に次ぐ力を持つともいわれてるんだよね。
人間を超える知能を持つ種族がいる一方で、目につくものを手当たり次第に攻撃する危険な個体も存在する。
どちらにしろ人間よりも遙かに強力な種族だ。
戦いになれば、相当に苦戦することは間違いない。
モンスターの危険度は最低でもSS級といわれてる。
世界の危険なモンスターでも上位に位置する存在だ。
もしランキングを作ったのなら、文句なしにトップ10に入る。
それくらいに強い種族なんだ。
もちろんそんなにたくさんいるモンスターじゃない。
この草原にも数体生息してるといわれてるけど、僕もまだ2回だけ、それもかなり遠目にしか見たことがないくらい数は少ないんだ。
だからそんなに気にする必要はないんだけど、悪い噂は広がりやすい。
下手に広がって手遅れになるとまずい。
騎士団は訓練されているから平気だと思うけど、もしこの人数でパニックになってしまったら、全滅の危険まである。
もしかしたら、今の状態は予想以上に悪いのかもしれない。
すぐにシルヴィアに相談したほうが良さそうだね。
そう思っていたら、騎士団の進行がストップした。
どうやらここで休憩を取るみたいだ。
こんな中途半端なところで休憩なんて今まで一度もなかった。
きっとシルヴィアも隊の不安を感じ取ったんだろう。
僕たちはすぐに隊の先頭にいるシルヴィアのところに向かった。
「シルヴィア!」
銀髪の騎士に声をかけると、驚いたように振り返る。
顔を真っ赤にして狼狽したように僕を見つめた。
「き、来てくれたのか、カイン殿……」




