責任を取ってくれないか◇
テントの入り口に立っていたカイン殿を見て私は驚いた。
「い、いつからそこに……?」
「入るよって声はかけたんだけど……」
「最初からではないか!?」
まさか、あの声は幻聴ではなく、本物の声だったなんて。
ではまさか、その後の声も全部本物ということか……?
つまり……。
「………………ずっと、見ていた、のか?」
羞恥心を押し殺し、冷静さを取り繕ってたずねた。
テントの中はそれほど明るいわけではない。
いつもの私と同じように見えたことだろう。
まさかカイン殿のことを妄想していたなんてわかるはずがない。
そもそも後ろからだと私の背中しか見えていないはず。
つまり何をしていたかわからないということ。
なら堂々としていればいいだけだ。
胸を張る私から、カイン殿が少しばつが悪そうに目をそらした。
「取込み中だから悪いかなって思ったんだけど……」
だめだ全部バレてるー!
ううう……。恥ずかしすぎて死んでしまいそうだ……。
「か、カイン殿は、今日はどうして私のテントに……?」
どうにかそれだけをたずねる。
私のテントに来たことになんてないのに、どうしてよりにもよってこのタイミングで来たのだろうか。
間が悪いにもほどがある。
震える声でたずねると、さも当たり前のように答えが返ってきた。
「今日はなんだか疲れてるみたいだったから。それで何か手伝えることはないかなと思ってね」
「それだけで、わざわざ私のテントを訪れてくれたのか?」
「うん。迷惑だったかな?」
その顔を見ると、本気で私のことを心配してくれているのがわかった。
これまで私のテントを訪れる者は誰もいなかった。
来たとしても部下の報告だけで、それ以外の用事なんてない。
私の不調に気がつき、こうして気遣ってくれた人は初めてだったのだ。
「カイン殿は、本当に優しいのだな……」
「そうかな。普通のことだと思うけど」
それを普通に行えることが、普通ではないのだ。
ということを、きっとわかっていないんだろう。
それくらい、カイン殿にとっては当たり前のことなんだ。
それにしても、まさか私が一人でいるところをずっと後ろから見られていたなんて。
しかも一人だと思っていて、恥ずかしいことも口走ってしまった気がする。
ううう、ダメだ……。
カイン殿の優しい眼差しを見れば見るほど、恥ずかし過ぎて死にそうだ……。
こうなったら、かくなる上は……。
「くっ、殺せ!」
「ええっ!? そんなことするわけないよ」
「このような辱めを受けるくらいなら、いっそ死んだほうがましだ……!」
「そこまで思いつめることもないと思うけど……」
カイン殿は本気でそう思っているようだった。
優しさから慰めてくれているという感じでもない。
たまにだが、私とカイン殿のあいだにすごい温度差を感じることがある。
「まさかとは思うのだが、こういうのは、市民のあいだでは、見せたり、あるいは見られたりといったことは、よくあることなのか?」
「えっと、それはマッサージのことなのかな?」
マッサージ?
……ああ、私に気を使ってあえて婉曲な表現をしているんだな。
「ああ、そうだ……」
「それなら、よくあるというわけではないと思うけど」
「その割には、その、反応が薄いというか、もっと驚くものだと思うのだが……」
普通ならこんなところを見られていたなんてわかったら、その場で恥ずかし死してもおかしくないと思うのだが。
それともこれが一般市民と騎士の感覚の違いなんだろうか。
「うーん。わざわざ見せることはないけど、見たからといってそんなに驚くこともないというか……。もちろん全然知らない人なら驚くというか、なんか気まずい感じはあるけど……」
「それは、私だから気にしないということか?」
「まあそうだね」
「そ、そうか。つまり私は特別ということか……。…………そうか。ふふっ」
つい口から笑みがこぼれてしまった。
それに気がつき、慌てて表情を引き締める。
「ありがとう。参考になった。だが恥ずかしいところを見られたことに代わりはない。そこでカイン殿にお願いがあるのだが」
「もちろん今のことは誰にもいわないけど……」
「そうではない。責任を取って、私と結婚してくれないか」
「なんで!?」




