興奮などしていないからな!?
「いや、その、興味があるかないかでいったら、ないわけではないというか、出来れば、私も、その、してみたいと、いうか……」
しどろもどろに答えるシルヴィア。
ライムが少し首を傾げた。
「でもシルヴィアは一人でしてるんだよね?」
「い、いや! 一人でしているというか、あくまでも興味があるだけでまだ未遂というか……! ちょっと好奇心があっただけで、市民の生活というものも知っておかねばならないし、騎士の身である私とていつかは家庭を持つわけで、そのためにもやはり事前に知っておくのも、重要なのでは、ないか、と……その……」
必死な様子でなにかを言い訳しようとしていたけど、やがてあきらめたようにため息をついた。
「……いや、言い訳はよそう。私はきっと疲れているのだと思う……。ライム殿から気持ちいいと聞いて……自分でもしてみたいなどと思うのは……」
疲れてるときに、自分でもできる気持ちいいこと……?
それって……マッサージかな。
なんだ、マッサージの話だったのか。
「それは別に普通のことだと思うよ」
「ふ、普通なのか?」
「うん。そうだと思うよ。疲れてれば誰だってしたくなるし」
「誰でもしたくなる!? そういうものなのか……」
「疲れたお父さんが自分の子供にさせたりとかもするしね」
「親が子供に!?」
なぜだかすごく驚いていた。
どうしたんだろう。騎士の人ではそういうのはしないのかな。
「そうみたいだよ。特に父親が娘にしてもらうと、すごくうれしいっていうし」
「父親が娘に!? し、市民のあいだではそれが普通なのか!?」
「そうだってよく聞くよ。僕には娘はいないからわからないけど……」
「わたしはいつもカインさんとの子供が欲しいって言ってるのに、全然繁殖してくれないんです」
ライムが不機嫌そうに頬を膨らませた。
「いや、それは……それに今ここでいうことじゃないと思うけど……」
シルヴィアの目の前でいきなりそんなことを言われても返答に困る。
いや別にどこで言われても返答には困るんだけど。
実際シルヴィアも顔を赤くして僕たちから顔をそらしてるし。
まあ視線だけはちらちらと僕の方を見てるけど……。
「市民のあいだではそれが普通なのか……。やはり私も勉強不足だな。騎士としての修業だけでなく、きちんと市民のことも知らなければなるまい」
「そういうことならいつでも頼ってよ。僕にできることなら何でもするからさ」
「な、なんでも!? なんでもしてくれるのか!?」
やけに興奮して近づいてくる。
妙に鼻息も荒いし。
いったいどうしたんだろう。
「なんでもといっても、僕にできることなら、だけど」
いきなり魔物の群れを倒してといわれても僕にはできないし。
「あ、ああ。もちろんだ。すまない、つい興奮して……。いや興奮などしていないからな!?」
「う、うん」
なんでいきなり興奮してるんだろう。
僕そんなに変なこと言ったかな。




