一人よりも二人のほうが
急にシルヴィアから話を振られたライムがきょとんとしながら聞き返した。
「わたしに? うんいいよ」
もしかして、ライムにもなにか騎士としてお手本となる部分があるんだろうか。
シルヴィアはどこかもじもじしながら切り出した。
「う、うむ。実はまた昨夜のことなのだが……。昨日も、その、カイン殿と、していただろう……?」
シルヴィアのどこかためらいがちな質問に、ライムも急に大人しくなってうなずいた。
「あ、えっと、うん……」
どうやらまた僕らの声がシルヴィアに聞かれていたみたいだね。
僕たちのテントは近いから声が届いちゃうのは仕方ないんだけど。
ライムとしては、なぜだか自分の体に虫が入ってしまったというのは、裸を見られることに以上に恥ずかしいことらしいんだ。
だからそのことをシルヴィアに聞かれて、すっかり大人しくなっていた。
それに気が付いているのかいないのか、シルヴィアが声をひそめたまま質問する。
「それでな、その……。そういうのは気持ちいいと聞いたことがあるのだが、本当なのだろうか……? いやあくまでも噂でそう聞いただけであってな! 特にそれ以上の意味はないのだが!」
「えっとですね……」
シルヴィアは耳打ちするような小さな声でたずねているのでその内容は僕には聞き取れなかったけど、ライムが頬を赤くしながら小さな笑みで答えた。
「好きな人に触ってもらうと、とても気持ちよくて、頭がポワポワしてきて、すっごく幸せな気分になるんです」
うれしそうな顔でなにかを教えている。
シルヴィアは熱心な様子で聞き入っていた。
「好きな人に触ってもらうと、か……。
それはその、自分で触ってみたりとかは、どうなのだ? いや、あくまで確認のためであって、自分で触りたいとかそういう意味ではないぞ?」
「自分で?」
ライムはそんなこと考えたことがなかったという顔になり、いきなり自分の体を触りはじめた。
「……うーん、全然気持ちよくないです。やっぱりカインさんに触ってもらうほうがいいですね」
「そ、そうか……。自分で触るよりも、カイン殿に触ってもらうほうがいいのか……。昨日のあれよりも、もっと……。私もカイン殿に……。いやいやいや! 騎士たる私がそのようなはしたないことなど!」
「シルヴィアは交尾しないの?」
「いきなりなにを聞いてるんだ!? そういうのは、夫婦の契りを交わしたもの同士だけが許されることだ。国に忠誠を誓う私がそのようなことするはずがない……。
ま、まあ、二人でしかできないことでも、一人でなら……」
「ひとりで?」
「い、いや、なんでもない!!」
シルヴィアがなにやら葛藤している。
声が小さいのでよくは聞き取れないけど、なにかに悩んでるみたいだ。
「……しかし、もしカイン殿と夫婦になれば、そのようなことをしても問題ないのか……?」
「僕がどうしたの?」
「……ッッ!?」
僕の名前が出た気がしたので聞いてみたら、シルヴィアがものすごく驚いて距離を取るように後ずさった。
「なななななんでもない! 私はまだ修行中の身だからそのようなことはまだ早いのだうむ!」
「そうなの? ところで、ライムとなに話してたの? 気持ちいいとか何とか聞こえたけど……」
「聞こえてたのか!?」
「そんなにはっきりとじゃないけど。なんか、触ると気持ちいいとか、一人よりも二人の方がいいとかなんとか……」
「……ッ! そ、そそそ、それはだな、その……」
言いよどむシルヴィアの横で、ライムが少し恥ずかしそうに教えてくれた。
「あの、シルヴィアが、昨日の夜のわたしとカインさんがしてたことを聞きたいというので……」
それは僕がライムの中に入っちゃった虫を取ってあげたときのことだよね。
もちろんその話をするわけにはいかない。
体の中に虫が入っちゃうって、普通じゃありえないことだからね。
でも、すでに二回も声を聞かれてしまっているから、不審に思われるのも仕方がないかも。
これ以上隠して不審に思われるよりは、ライムの正体を教えてしまったほうがいいのかな。
アルフォードさんも黙っててくれてるみたいだし、きっとシルヴィアだって言いふらしたりはしないよね。
大丈夫だとは思うけど、とりあえず本人に確認してみようか。
「もしかして、シルヴィアもそういうのに興味あるの?」
「……!!??」
なぜだかビクンッと体が飛び上がるほど反応した。




