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騎士としての理想

 若い騎士が去って行った後、入れ違いでシルヴィアがやってきた。

 シルヴィアが騎士を振り返る。


「今のはライオネルか……? こんなところに何の用だ?」


「前にライムに助けてもらったお礼をしに来たみたいだよ」


「そうか……。二人には私だけでなく仲間も何度も助けられているな。いくら感謝してもし足りない」


「そんなの気にしなくていいのに」


「そういうわけにはいかない。グリフォンとの戦いを回避できたのはカイン殿のおかげだ。あのまま戦いが長引いていれば、我が隊に死傷者が出ていたかもしれない。隊の代表として改めて礼を言わせてほしい」


 そういって再び頭を下げた。

 なんだか今日はいろんな人にお礼を言われる日だなあ。

 普段あんまりそんなことがないから、なんだかむずかゆいというか、落ち着かない。


「実は恥ずかしい話なのだが、我が『自由の風』団は、単独で実戦の場に出るのは初めてなのだ。いつもは他の先輩騎士団に助けてもらっていたからな。だからああいう不測の事態になるとどうしても経験の少なさが出てしまう」


「それはしかたないよ。僕はもう何度もここにきているから知ってるけど、最初は何もわからなくて困ったし」


「カイン殿でもそうだったのか」


 シルヴィアは驚いたようだった。

 僕は思わず苦笑してしまう。


「もちろんだよ。初めからなんでもできる人なんていないよ。だからみんな頑張って練習したり修行したりしてるんだし」


「……そういってもらえるとありがたい。このところ自分のふがいなさを痛感するばかりだったからな」


 そうつぶやくシルヴィアの表情は、どこか影のあるものだった。

 隊をうまく率いれていないと自分を責めているのかもしれない。

 僕は全然そんなことはないと思うんだけど。


「シルヴィアも経験を積めば僕なんてすぐに超えられるよ。そのために僕もこうしてきてるんだし」


「フ……。よけいな気を使わせてしまったようだな。なに、心配はいらない。未熟とはいえこれでも騎士の端くれ。お二人から存分に勉強させてもらうことにするよ」


「うん、その意気だよ。でも、できればお手柔らかにね。僕なんかじゃ騎士のお手本にはならないと思うから」


 冒険者としてならともかく、騎士としてなんてなんの参考にもならないと思うし。

 そう思っていたんだけど、シルヴィアは違うみたいだった。


「そんなに謙遜することはない。これでもわたしはカイン殿の中に騎士としての理想を見た気がしているのだ」


「ええっ、さすがにそれは言い過ぎだと思うけど……」


「自覚がなくても仕方あるまい。カイン殿は騎士ではないからな。だが、騎士とは鎧や家柄が作るのではない。心構えこそが騎士を作るのだ。そう気がつくことができたのだよ。さすがはアルフォード様が推薦するだけのことはあったということだ」


「そういうものなのかな……」


 僕なんかをお手本にされるのも恥ずかしいというか、恐縮過ぎるというか……。


「そんなことになったら、レベル1の騎士ばかりの騎士団が出来ちゃうよ」


「ふふふ。いいではないか。それこそ平和の証だろう」


 確かにいわれてみればそうかもしれない。

 騎士団が戦わなくていいということは、それだけ平和だっていうことだからね。


 でも、そういわれて納得する部分もあった。


 なにしろ今回のクエストは、僕には荷が重すぎると思ってたから。

 他に適任な人はいくらでもいる。

 正直、なんで僕なんだろうって思ってたんだ。

 アルフォードさんからの依頼じゃなかったら断ってたと思う。


 でもそれが、僕にはわからないだけでなにか騎士の人にとって参考になる部分があるのなら、納得だ。


「僕で参考になるのなら、いくらでも参考にしてよ」


「騎士の役目は規律を守ることではない。守るべき者を守ることなのだ。なのに私はそれを忘れていた。しかしカイン殿のおかけで思い出せたのだ。規律を守ることや、騎士らしく振る舞おうとすることは、悪いことではないが、時には重要ではないということだ」


 そうつぶやくシルヴィアの様子は、どこか自分に言い聞かせてるみたいだった。


「そういうわけなので……、またライム殿にひとつ教えてもらいたいことがあるのだが、いいだろうか……?」

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