強くてかわいくて憧れなんです!
「ほらライム、最初の日に石を投げてもらったでしょ。この人は、あのとき助けた騎士の人だよ」
ハウンドドッグに襲われていたとき、襲われていた騎士を助けるために、ハウンドドッグが嫌うにおいの葉を付けた石をライムに投げてもらったんだ。
どこかで見たことがある人だと思っていたけど、あのときだったんだね。
今は兜を脱いでいるけど、戦闘中はフルプレートで全身を覆っていて顔が見えないから、ライムがわからないのも仕方ない。
ライムもようやく思い出したようで、そっかあ、あのときの人かあ、なんてうなずいている。
「はっ、はい! その節は助けていただきありがとうございました!」
若い騎士の人は緊張しきった様子だった。
アルフォードさんやシルヴィア相手に緊張するのはわかるけど、ライム相手にこんなガチガチになるなんて、いったいどうしたんだろう。
ライムはかわいくて強いけど、怖いってことはないはずだし……。
「ライム様は、その、なんといいますか……大変お綺麗で美しいのに、そんなに強くて……。僕なんかはまだまだ全然で……、いつも隊長に怒られてばっかりですし……。だから、ライム様は僕の憧れなんです!」
どうやらそういうことだったみたい。
当の本人であるライムは、ほほえみながら否定した。
「そんなことないよ。わたしにはみんなみたいに剣とか盾とか、人間の武器は上手く扱えないから。面倒くさくなってつい手で殴っちゃうんだよね」
まあ、ライムは元がスライムだからね。
道具を使うということに慣れていないのはしかたない。
……そもそも剣とか盾とか使うより素手のほうが強いってのもあるかもしれないけど。
「だから、人間の道具を扱えるみんなのほうが、わたしよりもすごいと思うよ!」
ライムはたぶん本気でそう思っているんだろう。
裏表のない素直な性格だから、その思いか言葉と顔にそのまま出てくる。
にっこりとした明るい笑顔を向けられて、若い騎士の人はすっかり見惚れてしまっていた。
「あ、えっと、そういっていただいて光栄です。ライム様にそういってもらえると、自分も救われた気がします」
「そうなの? よくわからないけど、役に立てたのならうれしいな」
「い、いえ! こうして言葉を交わせただけでも十分です! それで、その、出来れば自分と……」
彼はちらりと一瞬だけ僕に目を向けると、ライムに向けて手を差し出した。
「僕と握手してもらえないでしょうか!」
ライムがきょとんとした表情になり、僕を振り返る。
「……カインさん、あくしゅってなんですか?」
「あれ、教えたことなかったっけ? こうやって、手と手で握りあうことだよ」
自分一人でやるのは難しかったけど、握手してる形を見せる。
「ああ! 人間がよくやっているやつですね!
はい、これでいい?」
ライムが差し出された手を握る。
相手がガチガチに緊張していたせいで、握手っていうか単に相手の手をつかんだだけみたいになっていたけど、騎士の人はそれで満足したみたいだった。
「は、はい! ありがとうございます! 自分もライム様のような立派な騎士を目指したいと思います!」
深く一礼すると、逃げるように走り去っていった。
「わたしでも皆さんのお役に立ててよかったです!」
ライムはとてもうれしそうに笑っている。
きっと、自分が話しかけられた理由もよくわかってないんだろうな。
確かにライムは強いしかわいいし、ファンが増えるのもわかるよね。
それは悪いことじゃないはずなんだけど……。
うーん、なんでこんなにモヤモヤするんだろう……。