やっぱり心配だなあ
「もしかして、僕と一緒に暮らすってこと……?」
「はい、もちろんです! ……あ、もしかしてダメでしたか……?」
「いや、ダメっていうか、男女が二人きりで一緒の家に住むのは……」
「でもでもわたしはカインさんにマーキングされてしまいましたし、もうカインさん専用なので……。
あ、もしかして異種間交配の心配ですか? それなら大丈夫です。わたしたちは様々なものに姿を変えられるため、種族の違いは問題にならないんです。むしろ様々な情報を取り込んだほうが擬態の精度も上がるため、異種間のほうがよいと教えられたくらいです」
「ひょっとして草や石を食べるっていうのも、栄養補給じゃなくて姿を変える情報を得るためなのかな?」
「はい、そのとおりです! さすがカインさんですね」
ライムたちは目撃情報もほとんどないから、生態が全然わかってないんだよね。
石や草に完璧な擬態ができるのも、そうやって本物の情報を取り込んでるからなんだろうな。
「わたしがこうして人間の姿になれるのも、きっと遠い祖先のどこかでわたしたちと人間とのあいだに子供ができたからだと思うんです。わたしとカインさんのような運命的な出会いだったんでしょうね……」
ライムがうっとりとつぶやく。
なるほど、それは興味深い。
確かにゴールデンスライムの目撃情報は少ないんだ。
でもそれは誰も会ったことがない、という意味じゃないのかもしれない。
僕とライムみたいに、出会ってもその存在を隠してる人は案外多いのかも。
そういえば、ライムは僕と会ってから人間に擬態できるようになったっていってたっけ。
それはつまり、僕の血を取り込んだ後ということ。
もしかしたらそれがきっかけになって、過去の情報とかを呼び出せるようになったのかもしれないね。
僕が思いふけっていると、ライムが急に心配そうな表情になった。
「あ、それとも、もしかして人間は、交尾を終えた雌は捨ててすぐに次の交尾相手を探しに行く系の種族ですか……?」
「いや、普通はそんなことしないけど……」
「でしたら、やっぱり交尾した相手と一生一緒に添い遂げて子育てをする系の種族なんですね!」
「う、うん、一応はそう、かな……」
そのへんは人によると思うけど。
「とりあえず女の子が交尾を何度もいうのはよくないと思うよ……。それに、僕も知らなかったからで、ライムを助けたのはそういうつもりじゃ……」
もごもごと口にすると、ライムが傷ついた表情で僕を見つめ、やがて寂しそうに笑った。
「そう、ですよね。いきなり押し掛けてきて、やっぱり迷惑ですよね……。ごめんなさい。すぐに出て行きますから」
そういったのに、ライムはその場を動こうとはせずに、落ち込んだ表情でうつむくだけだった。
うっ。
そんな表情をされるとものすごく断り辛い。
「迷惑ってわけじゃないけど、そういうのは普通女の子のほうが嫌がるっていうか……」
それに、僕みたいな無能力者のレベル1なんか……と思っていると、ライムが急に体を乗り出してきた。
「嫌がるなんてそんなことないです! わたしはカインさんが好きなんです! 一緒にいられるならなんでもします!」
ほとんど叫ぶような表情で訴えてくる。
そのまっすぐな言葉に思わず僕は胸を打たれた。
なんの取り柄もない僕を真正面から好きだといってくれたのは初めてだったんだ。
それに、ライムは端から見てもすごくかわいい女の子なのも、まあ無関係じゃないよね。
外はもう真っ暗だ。
こんな真夜中に女の子をひとりで放り出すわけにもいかない。
「わかったよ。とにかく今日は僕の家に泊まっていって」
「やったー! ありがとうございます!!」
ライムが飛ぶようにして抱きついてくる。
いろいろなところが当たってきてなんだかすごく落ち着かない。
とにかく今夜は、ライムはベッドに寝てもらって、僕は床に布団を敷いて寝ることにした。
最初は一緒じゃないとイヤだといってきたけど、人間の生活はそういうものなんだといったら、しぶしぶ納得してくれた。
よかった、一緒に寝るとか言い出されなくて。
これで心配することなく眠れそうだ。
「あ、さっきなんでもするといいましたが、もちろん子作りも含まれてますよ! カインさんが望めばいつでも受精モードになりますので!!」
「う、うん。そうなんだ。とりあえず今日はそういうのはいいからもう寝ようか」
「はい! ではおやすみなさい!」
やっぱり心配だなあ。