草原の空を統べる者
三日目の朝も天気は快晴だったけど、空気はどこか重くなっていた。
魔物との慣れない連戦で騎士団の人たちが疲れているのはあると思う。
常に騎士たちの模範となるべく行動しているシルヴィアでさえ、表情に疲れが見えていた。
あの様子だと、もしかしたらよく眠れていないんじゃないかな。
騎士団の今後のこととか、連携の見直しとか、色々と考えることがたくさんあったのかもしれない。
なにしろこのあたりの草原は、奥に進むほどモンスターも強くなることで有名だからね。
でも、あたりの空気が重いのは、騎士団の疲れだけが原因じゃない。
通常ではいないはずのモンスターが近くにいる証だ。
草原には様々な動植物が住んでるんだけど、コカトリスみたいな魔獣も生息している。
本来なら自然界には自然発生しないはずの彼らが群れで暮らしてるのもここくらいなんだ。
しかも奥に進むほどにその多様性は増していく。
何者かが魔獣を放っているのではとも言われているけど、その詳細は未だにわかっていない。
幻の鉱石ともいわれる虹の欠片があるといわれているのも、この秘密があるからなんだ。
その時、鋭い叫び声が上がった。
「おい、あれをみろ!」
誰かが空を指さす。
青空に四つ足の影が浮かんでいる。
と思った次の時には、人の体の二倍以上もの体躯を持つモンスターが舞い降りてきた。
獅子の体に鷲の顔と翼を持つ魔獣、グリフォンだ。
翼を広げた姿は10メートル以上。
鷲獅子ともいわれる空の王者だ。
僕たちに向けて前足を振り上げ、威嚇するように声を響かせた。
「ひるむな! 慌てずに迎撃陣形を取れ!」
すかさずシルヴィアの号令が飛ぶ。
冷静さを取り戻した騎士たちが、統率された足並みで陣形を組んでいく。
「よし、これで……」
シルヴィアがそうつぶやいた時、空からもう一つの鳴き声が響いた。
「バカな、もう一体だと!?」
獅子の体を持つグリフォンは誇り高いモンスターだ。
基本的に単独で行動し、群れることを好まない。
だけどひとつだけ例外がある。
たてがみが立派な最初のグリフォンに対し、新たに現れたほうはスッキリとした見た目だった。
「メスのグリフォン……。番いのグリフォンか!」
シルヴィアがすぐに隊の形を変えて対応しようとする。
だけど……。
「シルヴィア、まだだよ! もう一匹いる!」
誇り高い彼らはたとえ夫婦でも共に行動することを好まない。
そのたった一つの例外。それが……。
ひときわ甲高い声が空から鳴り響き、小柄な姿が夫婦の後から舞い降りてくる。
グリフォンたちは、子育てのあいだだけ、共に手を取り合って子供の成長を見守ることで知られている。
その絆は鉄より固く、子を守るためならたとえ魔王が相手でも引かないといわれているくらいだ。
「シルヴィア、危ない!」
空を舞っていたグリフォンのうち一匹が、シルヴィアに向けて急降下してきた!