その感情の名前は◇
体の内側が熱い。
ムズムズして落ち着かなくなり、内股になって歩いてしまう。
……これはあくまでも、市民のことを知るためだ。
民を守るためには、民のことを知る必要がある。
そのためだけだ。
だから決していかがわしい行為ではない。
むしろ神聖で高潔な行為だ。
だから、決して、恥じる必要など……。
心の中で言い訳を繰り返しながら、テントに映る二人の影をいつまでも見つめていた。
やがてカイン殿たちの声が聞こえなくなり、眠るように動かなくなった。
一匹の羽虫がテントから出て行ったが些細なことだろう。
一部始終を見終えた私は、フラフラになりながら自分のテントへと戻った。
これは民のためなんだ。
そう言い聞かせなければ何かに押しつぶされてしまいそうだった。
全身が熱くて、息が荒い。
心地よい疲労と、かすかな罪悪感がないまぜになって、私の心をかき乱す。
宮廷の女どもが密かに話していたことがある。
そして、いわゆる「女」を知らない私をバカにしていたことも。
その時は、なんてくだらない、と内心で思っていた。
騎士を志す私には関係のないことだし、そのような話にうつつをぬかすなど心がたるんでいる証拠だと。
そう思い込んでいたんだ。
なのに、今はもう……。
ふらふらの足取りでベッドに倒れ込んだ。
思い出すだけで全身が熱くなる。
自分が今とてもみだらな想像をしているという自覚はある。
本来夫婦のあいだでしか行ってはならないはずのことを、独り身の私が想像するなどあってはならないことだ。
なのに、振り払おうとしても妄想はますます強くなるだけだった。
私はどんな時でも一定時間以上の睡眠を欠かしたことはない。
アルフォード様に、騎士はいつ呼び出されてもいいように常に体調を万全に整えておくべきだ、といわれていたからだ。
睡眠不足で翌朝に疲れを残すなど騎士として失格だ。
隊を預かる身としては断じてあるまじき行為である。
しかし……。
火照った体を持て余したままでは、きっと眠れないだろうと予感した。
「カイン殿……」
どうしてその名をつぶやいたのか。
その名前がどうしてこんなにも胸をかき乱すのか。
わからないまま、私はまた体の奥がうずきはじめるのを感じていた。
この感情がなんと呼ばれるものなのか。
その答えを私はまだ知らなかった。