女騎士の葛藤◇
カイン殿に教えてもらった場所で昼休憩を終えた後は、モンスターと戦闘になることもなく予定の場所までたどり着くことができた。
おかげで野営地の準備もスムーズに進んでいる。
ちなみに場所は、昼と同じハウンドドッグたちが嫌う草の群生地だ。
カイン殿が場所を把握していたため、迷うこともなくすぐに着くことができた。
草原は果てしなく広いが、目印となるものが少ないため迷いやすい。
なのに、こんな目立たない草の群生地の場所まで正確に誘導できるとは、やはり彼はただものではない。
ここならばモンスターに襲われる心配がないため、夜の見張りは最小限にした。
二日続けて戦闘があったため、部下たちも疲れ果てていることだろう。
それもあって休養を多めに取るように命令した。
おかげで宿営地はずいぶん静まりかえっている。
普段では考えられないほどだ。
もちろんそれが出来るのは、この場所をカイン殿に教えてもらったおかげである。
剣を持って戦えば私のほうが強いだろう。
だが、無益な殺生をしないカイン殿のほうが、騎士としての理想に近いのではないか。
そんな思いが私の中に生まれはじめていた。
騎士は国を守るためのもの。
真の騎士は戦わずして勝つものだ、といっていたアルフォード様の言葉を思い出す。
殺さなくてもいいものを殺すのは、未熟な証ではないだろうか。
カイン殿のことを思い浮かべたとき、昨夜のことを思い出してしまい、私は顔が熱くなるのを自覚した。
私は生まれてから今日まで、立派な騎士になるべく育てられてきた。
だからそういったことには疎い。
宮廷の女たちが色恋の話をしていても、私には関係のないことと思って聞き流してきた。
だが、今となっては……。
今日は見張りの数が少ない。
私は誰にも見つからないように、こっそりとテントを忍び出た。
どうして人に見つかってはならないのか、自分でも答えられない。
だけど、どうしても、足が向かうのを止められなかった。
やがてカイン殿のテントが見えてくる。
それに従って、小さく声も聞こえはじめた。
「カインさん……また入っちゃいましたあ!」
「ええっ、また!?」
「うぅ~、取ってください~」
静まりかえった夜の闇に、ライム殿の甘い声が響きわたる。
テントの布越しに影が見える。
はっきりとした姿が見えないのが、よけいに妄想を駆り立てた。
心臓が爆発しそうなほどに高鳴っている。
二人が今なにをしているのか、私にはわからない。
だからよけいに想像してしまう。
ライム殿の声はとても気持ちよさそうで、幸せそうだった。
夫婦の営みをすることは、女としての幸せだという。
そう自慢げに話す宮廷の女たちの話なんて、今まで信じていなかった。
だが、この声を聞いていると……。
私は、フラフラと、二人の影が映るテントに近づいていった。