昨夜はお楽しみでした◇
シルヴィアが、昨日の夜に僕たちが何をしていたのか尋ねてきた。
「昨日はなにやらその、ライム殿の悲鳴のようなものが聞こえてな……。い、いや、詳しくは聞こえていないのだが、もし何か不便があっては騎士としての名折れだからな。ただそれだけの理由であって、決して興味本位というわけでは……」
「なにといわれても、それは、その……」
どうやら声を聞かれてしまっていたらしい。
昨日の夜のことといえば、ライムの体に入ってしまった虫を取り出したときのことだと思う。
かといって、ライムの体に入ってしまった虫を取っていました、なんて本当のことをいうわけにはいかない。
ライムは見た目は普通の女の子だけど、本当は人間に擬態したスライムだ。
だから体内に虫が入ってしまうなんてことが起こったんだけど、それを正直に話したら、正体を教えてしまうことになる。
シルヴィアのことを信頼していないわけじゃないけど……やっぱりそれだけは避けなければいけない。
だから答えようとする僕の言葉も歯切れ悪くなってしまっていた。
「いや、えっと、それは……」
「それはその、恥ずかしくていえないですぅ……」
いつもは元気なライムもさすがに昨日のことは恥ずかしいらしい。
裸を見られてもなにも感じないのに、体の中に虫が入ったことは恥ずかしいみたいなんだよね。
基準がよくわからないけど、とにかくライムにとってはそうらしい。
顔を赤くするライムを見て、シルヴィアも頬を赤く染めていた。
「も、もちろん、無理に話してくれなくてもいい。ただ、その、二人がなにをしていたのか気になっただけというかだな……」
「えっと、その……カインさんに……出してもらったんです……」
途切れ途切れに答えるライム。
僕が虫を外に出してあげたんだよね。
なにもまちがってないのに、なにもかもがまちがって聞こえるのは、僕の気のせいかなあ?
「だ、出したのか……。それは、中に、ということか……?」
「ち、ちがいます! ちゃんと外に出してもらいました!」
ライムが強く否定する。
やっぱりそこはライムの恥ずかしポイントみたいだ。
「い、いや。責めているわけではないのだ。お互い同意の上でならそういうことはなにも問題ない。夫婦の営みとしてごく普通のことだからな。なにも問題はない」
うんうん、とうなずくシルヴィア。
僕たちは夫婦じゃないんだけどな……。
今いったところで信じてもらえないかもしれないけど。
「ただ、その……。できればもう少しだけ詳しく教えてもらえないだろうか……。
い、いや、私がそういうものに興味があるというわけでは決してなくてだな! 市民の生活を知る参考にというか、王宮の騎士生活ではどうしてもそういう知識に乏しくて、想像にリアリティというものが……」
最後のほうはほとんど言葉が消えかかっていて聞き取れなかった。
なんだか妙にいいわけがましいけど、騎士の人はほとんどが貴族の生まれだっていうから、僕たちみたいな庶民に話を聞くことになにか抵抗があるのかもしれないね。
「えっと……」
ライムがシルヴィアにそっと耳打ちする。
ライムは基本的には素直な性格だから、聞けば恥ずかしくてもちゃんと答えてくれるんだよね。
なにやらひそひそと話し合っている。
恥ずかしそうに話すライムと、それを真っ赤な顔をしながらも真剣に聞き入るシルヴィア。
顔を赤くするライムというのもなかなか見られない。
でも、そんなに真っ赤になることって、いったいなにを教えてるんだろう。