羽虫の行方◇
ライムの体は弛緩してトロトロに溶けてしまっている。
服なんてほとんど形が残らないくらい溶けてしまって、自分の体と同化していた。
そのせいで、服の中に入っていた虫がそのままライムの体内に取り込まれてしまったみたいだ。
ライムはスライムなんだから体内に入った虫もそのまま消化できるんじゃないかな、と一瞬思ったけど、涙を浮かべてこの世の終わりみたいな顔をしているライムを見てそんな考えはすぐに捨てた。
生きた虫をそのまま食べればいいよね、なんてそんなひどいこといえるわけないよね。
「えっと、僕に出来ることはあるかな」
「取ってくださぃ……!」
うん、まあそうなるよね。
「で、でも、ライムの体の中に入っちゃったんだよね」
「だから、カインさんの手を、わたしの中に入れてくださぃ……!」
ううっ、やっぱりそうなるのか……。
「でも、ライムの中に入れるっていっても……」
ほぼ全裸のライムを直視しないようにしながら見てみると、お腹の下あたりに小さな影が見つかった。
ちょうどおへその位置に虫が取り込まれてしまったみたいだ。
ライムの体は今やすっかりふやけていて、作りたてのゼリーみたいになっている。
これならライムの体内にも手を入れられそうだ。
「よ、よし、それじゃあいくよ。もし痛かったら言ってね」
「うう……。お願いしますぅ……」
お腹に手を当てて、そのままゆっくりと力を込める。
その感触はゼリーというよりは、密度の濃い水みたいだった。
僕の手がゆっくりとライムの中に沈んでいく。
取り込まれた虫は動けないみたいだったから、これなら狙いを外すこともない。
慎重に指を動かすと、どうにか虫をつかんで外に出すことができた。
「ふう、うまく行って良かったよ」
いくらライムがスライムだからとはいえ、その体の中に手を入れるのは、素人が手術をするみたいですっごい緊張したよ。
気がつくと汗でびっしょりと濡れていた。
緊張から解放された反動で思わずベッドの上に倒れてしまう。
すぐ横では今もライムがぐったりと横たわっていた。
「ライム……大丈夫だった……?」
ライムはまだ荒い息をついていたけど、疲れた顔でにっこりと笑みを浮かべた。
「えへへ……。カインさん、大好きです」
「ど、どうしたの急に……?」
「なんでもないです。ただ、そう思っただけです」
そういってほほ笑む。
ライムの笑顔は何度も見ているはずなのに、なぜだか目が離せなくなってしまい、僕たちはいつまでも見つめ合っていた。
やがて一匹の羽虫が何事もなかったかのようにテントの外へと飛んでいった。




