服の中に入っちゃったんです!◇
草原には多種多様な生き物がいる。
ほとんどは日中に活動するけど、天敵を避けて夜に活動する生き物も意外と多い。
そしてそういう生き物は、なぜか明かりに引き寄せられてくるんだ。
昔は月の明かりに引き寄せられたともいわれているけど、今は人間が作り出したもっと強い明りがあるからね。
はじまりは小さな羽音だった。
やがて、僕のとなりで幸せそうに眠っていたライムが急にビクンと体をふるわせた。
「ひゃあっ! な、なんですか!?」
「どうしたのライム?」
「な、なにかがわたしの体の中に……!」
慌てて飛び起きると、蒼白な顔を僕に向けた。
「カインさん、服の中に虫が入っちゃいましたぁ……!」
「ええっ? 大丈夫?」
「大丈夫じゃないですー! 取ってくださぃ~!」
えっ?
「取ってって、虫を……?」
「カインさん、早くわたしの服の中に手を入れてくださぃ~」
ライムが涙声で訴える。
「ふ、服の中っていっても……」
服の中の虫を取るためには、もちろん服の中に手を入れなければいけない。
さすがにそれは色々と問題がある気がするんだけど……。
「あっ、そういえばライムは服も自分で作ってるんでしょ。だったら服を消せば……」
「そそそ、そんなこと言っても、無理ですよぅ……! ひゃあああっ! 中で、中で動いてます! カインさん、早くしてくださいぃ~!」
ライムの全身がぶるぶると波打つように震える。
どうやら力が入らないみたいで、形もところどころ崩れかかっていた。
うーん、確かにこんな状態じゃ細かい変化はできないかもしれないけど……。
「わ、わかったよ。中の虫を取ればいいんだね」
「は、はい、お願いしますぅ……」
「それで、虫は今どの辺にいるの? 背中とか……?」
淡い期待を込めてたずねると、ライムが目に涙を浮かべながら答えた。
「胸のあたりです~……」
そっかあ。胸かあ。
できれば背中側が良かったなあ。
いや、ここでひるんでいたらダメだ。
誰だって服の中に虫が入ったら嫌に決まっている。
ライムだって涙まで浮かべているんだ。
まさかこんなことで忙しいシルヴィアを呼ぶわけにもいかないし、僕が助けなかったら誰が助けるというんだ。
パッと取って、さっと手を抜けばすぐに終わる。
なにも恥ずかしいことはない。
人工呼吸が恥ずかしくないのと同じ。
これは人助け。そう、人助けなんだ。
自分に言い聞かせながら、何度も深呼吸した。
そして決意を込めて宣言する。
「よ、よし、それじゃあ行くよライム」
「は、はい、お願いします……」
そうしてライムの虫摘出大作戦が始まった。