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コカトリスの唐揚げ

 血抜きしたコカトリスの肉を手頃な大きさに切り分ける。

 火水晶の上に竜鱗の鍋を置いて熱していると、出かけていたライムが戻ってきた。


「カインさん、いわれた通りにいっぱい採ってきました!」


 両手いっぱいに持った黄色の実を見せてくる。

 オイルフラワーと呼ばれる花の実だ。

 その名の通り、実の中にたくさんの油を含んでいるんだ。

 絞ると良質な油が鍋の上にあふれてくる。

 油が程良く温度が上がってきたところで、下拵えをすませたコカトリスの肉を投入した。


「ううう……。待ちきれないです~!」


 油で揚げられる小気味いい音が響く。

 ちょうどいいところで上げると、こんがりときつね色になった唐揚げが姿を見せた。

 お皿に並べると同時に香ばしいにおいも漂ってくる。


「ふわぁ、美味しそうな匂いがしてきました……」


 食べる前からライムが恍惚とした表情を浮かべている。

 まだ揚げたてだから熱いんだけど、ライムは気にせずに素手でつまんで口の中に入れた。


「あふっ、あついれすっ」


「そりゃあ揚げたてだからね。急がなくてもご飯は逃げないんだから、ゆっくり食べたらいいのに」


「うぅ~、だって……、カインさんの作ってくれた料理だから、早く食べたかったんです」


 にっこりと笑いながらうれしいことをいってくれる。

 僕もひとつつまんで食べてみた。


 表面はからっと揚がっていて歯ごたえがあるけど、中はやわらかでジューシーになっていた。

 かむと肉汁が口の中いっぱいにあふれてくる。

 オイルフラワーの油の味も程良い隠し味になっている。

 うん、美味しく出来てるみたいでよかった。


 二つ目を口にしたライムが、幸せそうな表情を浮かべた。


「やっぱりいくつ食べても美味しいですぅ~」


 本当に美味しそうに食べている。

 そういう表情を見ていると、がんばって作ってよかったなって思うよね。


 気がつくと周囲の騎士の人たちが全員僕たちのほうを見ていた。

 どうやら騎士団のご飯は例の保存食みたいだ。

 どんなものでも美味しく食べるライムでさえ「すっごい味がする」といってひとつしか食べられなかったほど不味いやつだ。

 しかもあのときはニアが水炊きにして調理したおかげで、多少はマシになっていたんだっけ。

 それでもあの味だったからね。


 いま騎士の人たちが食べているのは、固形のままの保存食だ。

「栄養のある紙粘土」とまでいわれるほどのものだからね。

 食べるのは本当に大変なんだ。

 軽いし、少ない量で必要な栄養素も摂取できるし、保存食としてはとてもよくできてるんだけど。


 こちらを見る人たちの中にシルヴィアを見つけて、僕は近づいた。


「オルベリクさん」


 ライムをほうをじっと見つめていたシルヴィアに声をかけると、はっとしたように我に返った。


「なっ、なんだ? 美味しそうだから私も欲しいだなんて思っていたわけではないぞ?」


 自分も食べたかったのかな?

 ライムは本当に美味しそうに食べるからね。

 そう思ってしまう気持ちも分かるよ。


「実は渡したいものがあって……」


「わ、渡したいものだと?」


「はい。さっきの料理中に作ったものなんですけど……」


「料理中に……? まさか私の分まで作っていたというのか……?」


 どうやら僕が作っていたものに気がついていたようだ。

 さすが騎士団を率いているだけはあるね。


「本来なら受け取れないが、貴様がどうしてもというのなら受け取るのもやぶさかではないというか……」


「実はこれなんですけど」


「う、うむ」


 妙にそわそわしているシルヴィアに、持ってきたそれを手渡した。


「これは……液体の入った瓶?」


「コカトリスの血と骨から作った石化治療薬です」


 僕たちが奪ってしまった命だから、せめて少しでも無駄のないように使ってあげたかったんだ。


「………………」


「羽から作った治療薬と違って、より成分の濃い素材を使っているので、石化を治す効果がより強くなっていると、思うんだ、けど……」


「………………………………」


 あれっ、なんですっごいがっかりした目で見られてるの?


「あ、ああ。そうだな。石化治療薬は大事だからな。ありがたく受け取っておこう」


 そういいながらも、目はちらちらとライムのほうを追っていた。

 そんなに唐揚げが食べたかったのかな?

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