生きるということ
騎士の人たちがコカトリスとの戦いで乱れた陣形を立て直すついでに、ここで野営をすることにしたみたいだった。
日もそろそろ沈みはじめている。
草原の夜は本当に真っ暗になるから、準備なしに進むのは危ないんだ。
騎士の人たちが野営の準備をするあいだ、僕たちは倒れたコカトリスのところにやってきていた。
シルヴィアが倒したときのものだ。
首が一撃で切り落とされていた。
まさに一刀両断という言葉がふさわしい、きれいな太刀筋だった。
これならきっと苦しむこともなかっただろう。
僕なんかじゃこうはいかない。
騎士として何年も修行をしてきたシルヴィアだからこそできる技だ。
倒れたコカトリスの前で僕は手を合わせた。
その仕草をライムが真似をしながら、不思議そうにたずねてきた。
「カインさん、これはなんですか?」
なに、と聞かれて、僕も答えに困ってしまった。
「死んだ人の祈りを捧げるみたいなものかな……」
僕たちが来なければこのコカトリスは命を落とすことはなかったはず。
そう考えると、とてもかわいそうに思えるかもしれない。
でも戦わなければ騎士の人たちにもっと犠牲が出ていたはずだ。
自然の中ではいつもどこかで戦いが起こっていって、勝ったほうだけが生き延びる。
それが弱肉強食の世界だ。
僕たちも生きている以上、こういうことが起こることは避けられない。
ならせめて祈りくらいは捧げようと、そういう気持ちなのかもしれない。
自分のことなのにこんなに曖昧なのも変な話なんだけど。
「そうなんですか。人間って時々変わったことをしますね」
こういうときのライムはとてもドライだ。
自然の世界は弱肉強食だ。
そういう世界でずっと生きてきたから、死を特別なものとして意識しないんだろう。
僕たちがなにかを食べるとき、それが元は生きていたんだということを意識しないように……。
しばらく手を合わせて黙祷した後、おもむろに立ち上がった。
「それじゃあ、僕たちもご飯にしようか」
「もしかして唐揚げですか!?」
ライムが瞳を輝かせる。
思わず苦笑してしまった。
「うん、そうだね。そうしようか」
僕は倒れるコカトリスを見つめた。
命を奪うことは生きていく以上避けられない。
ならせめて、その命を無駄にしないことが僕たちに出来るせめてもの礼儀なんじゃないだろうか。
なんて、考え過ぎなのかもしれないけどね。




