石化治療薬
シルヴィアがコカトリスたちの飛んでいった方角を立ち尽くすように見つめていると、数人の騎士が急いで駆けつけてきた。
「オルベリク隊長!」
ぐったりとした騎士が両脇を別の騎士に抱きかかえられてやってくる。
「どうした!」
尋ねながらも、すぐに気が付いたみたいだった。
僕も連れられてきた騎士のある一点にすぐに目がいった。
騎士の人は、右腕の先が灰色に変色していた。
「すいません隊長……。油断して、くちばしの一撃を……」
「くそっ……! まだ石化したばかりか? ならすぐに町に戻って手当を……」
「待ってください」
戻ろうとする騎士たちを僕が止めた。
「石化したばかりならまだ治せると思います」
「貴様が石化を治すだと? 石化解除は高位の司祭のみが使えるスキルだ。貴様みたいなレベル1の無能に出来るわけがないだろう!」
確かに解呪のスキルは僕にはない。
だけど僕には僕のやり方がある。
「ライム、少し手伝ってくれないかな」
「はい、もちろんです!」
飛び去っていったコカトリスの群れを名残惜しそうに見送っていたライムが、すぐに僕のところにやってくる。
「飛んでいったときに落ちたコカトリスの羽を何枚か集めてほしいんだ」
「任せてください!」
元気よく返事をして、コカトリスたちが飛んでいった方角に駆けていった。
ライムは走るのも早いからすぐに集めてくれるだろう。
それにしても妙に張り切ってるなあ。
僕の手伝いをするのがそんなに楽しいんだろうか。
とにかく、僕はそのあいだに調剤用の道具を取り出した。
手に入れた素材を使ってアイテムを作るための簡単なセットだ。
本格的なものは家にあるんだけど、それをそのまま持ってくると大変だからね。
こうして持ち運びに便利な簡易版もあるんだ。
僕が準備を終えた頃にちょうどライムも戻ってきた。
「ただいま戻りました! これでいいですか?」
抜け落ちたばかりの三本の羽を差し出してくる。
「これで十分だよ。ありがとうライム」
「カインさんのためにがんばりました! いっぱいほめてください!」
「う、うん、ありがとうライム」
「えへへ……。このクエストが早く成功するように、いっぱいお手伝いしますね!」
ライムはいつも元気いっぱいに僕を手伝ってくれるけど、今日はいつも以上に張り切っている。
どうしたんだろう。そんなにピクニックが楽しいのかな。
とにかく、受け取った羽を使ってさっそく薬を作りはじめた。
本当はコカトリスの血とか骨とかのほうがいいんだけど、簡易的なものだから羽でも十分なんだ。
必要なのは根元の骨の部分なので、そこだけを削り取って細かく刻んでいく。
それを布に包んで強く絞ることで、羽に染み込んでいたエキスが絞りだされた。
といっても本当にわずかしか出てこない。
慎重にすくい取り、軟膏の中に練りこんでいく。
やがて完成したものを持ってすぐに騎士の人のところに向かった。
「これを石化した部分に塗ってください」
受け取ったシルヴィアが疑わしそうな表情をした。
「こんなので本当に効果があるのか……? 石化解除の薬となれば、数も限られるかなり希少なアイテムのはず。聖職者の祝福もなしに、こんな簡単に作れるわけが……」
「大丈夫です! それよりも時間がないので、早くお願いします!」
焦りから思わず声が大きくなってしまった。
僕の本気を感じ取ってくれたのか、やがてシルヴィアも神妙にうなずいた。
「……。わかった。貴様を信じよう」




