レベル1スキル0の冒険者のくせに
コカトリスのとさかが真っ赤に膨れ上がっているのはかなり興奮している証だ。
ライムにつかまれている限りは被害が出る心配はないけど、さすがにこのままずっとつかんでるってわけにはいかないよね。
僕はここに来る途中に採取しておいた野草を取り出すと、手ですりつぶしてコカトリスに匂いをかがせた。
「コケーッ! コケ……コケ?」
暴れていたコカトリスが次第に大人しくなり、とさかも小さく折りたたまれた。
ライムが不思議そうに見つめる。
「静かになっちゃいましたね」
「さっきの花には沈静化の作用があるからね。それで大人しくなったんだよ。それじゃあライム、その子を離してあげて」
「「えっ!?」」
驚きの声がライムと騎士の人たちの両方から上がった。
騎士の人たちが驚いたのは、さっきまで暴れていたコカトリスを解放しろなんて言ったからかもしれない。
対してライムは、とても残念そうな顔をしていた。
「逃がしちゃうんですか……?」
暗く沈んだ、とても悲しそうな声だ。
「うん、コカトリス達が興奮しているのは、僕たちが縄張りに大勢で踏み込んだからだと思うんだ。元々積極的に人間を襲うモンスターじゃないし。僕たちに敵意がないとわかれば、すぐに引いてくれるはず。だから逃がしてあげよう」
「ううぅ……。カインさんがそういうのでしたら……」
ライムが渋々ながらも手を離す。
解放されたコカトリスが地面に降り立った。
「なっ!? 本当に離すやつがいるか!」
周囲の騎士たちが慌てて距離を取る。
みんなは警戒していたけど、コカトリスはすっかり落ち着いていた。
コッココッコとのどを鳴らしながら、首を傾げて不思議そうに僕とライムを見上げる。
その場で何度か足踏みすると、やがて羽を広げ、甲高く一声鳴いて空へと飛びあがった。
「空を飛ぶだと!?」
騎士たちの驚く声が聞こえる。
コカトリスに限らず、鶏は空を飛ばないと思ってる人が多いからね。
でも種類によっては短時間だけど空を飛ぶことができるんだ。
一匹が飛び立ったのを見て、他の場所でバラバラに戦っていたコカトリス達も一斉に飛び立った。
僕らの頭上を越えて遠くへと降りていく。
どうやら逃げてくれたみたいだ。
「モンスターが、帰っていく……」
指揮を執っていたシルヴィアが、コカトリス達の飛んで行った方角を見つめる。
すべてのモンスターは人間の敵であると思っている人は多い。
シルヴィアもその一人だったんだろう。
だからコカトリスたちが僕たちに背を向けて去っていく姿は衝撃的だったみたいだ。
「コカトリスたちが逃げていく……。助かったんだ!」
騎士たちから次々と歓声が上がる。
そんな中、シルヴィアが呆然とするようにつぶやいた。
「我々でも一体を倒すのがやっとだった魔物を、レベル1スキル0の冒険者が追い払ったというのか……?」
追い払ったというか、こちらに敵意がないことを伝えただけなんだけどね。




