Hello taboo
本当に久々の更新です
城塞都市 セフィラン
この都市は眩しい。 僕は鎖に繋がれた書きかけの本をペラペラめくりながら、ホコリかぶった兵舎の窓を眺める。
窓から眺める空は、鉄筋が蜘蛛の巣ように張り巡らせ、僕はげんなりする。
「ここにも自由はないのか?」
『この世界より、もっとふさわしい世界がある』
僕がそのような理想を描いたのは、小さい頃だった。当時の僕は父の期待と姉の真実から逃れたくて、必死に自分の理想の世界を頭の中に想像し、そして鎖に繋がれたノートに小説として書いていた。この小説に書いて自分の身につけていれば、神様が僕を異世界に飛ばしてくる。僕を理想の世界に連れてってくれるそんな妄想じみた物だった。
でも、実際はこのノートは、僕以外の人間に見せることなどなく、僕は嫌々、人類統率軍の総司令の父親のコネを使って、軍に入隊し、姉は軍のエースとして活躍しており、落ちこぼれの一兵の自分とは天と地くらいの差があった。
このまま、僕に似合っていない世界で僕は終わってしまうのか?
僕はずっと願っていた、変わることをこの窮屈な日常を少しでも変えることを、特別で素敵な世界にしたいと想っていた。
しかし、僕の見える世界は、鉄筋に覆われた檻のような物、そんなふうに想うと僕の心はもっとナイーブになり、たまらず逃げたくなる。
この要塞都市を含め、空を含め、ほとんどの自然は人類の人工物で侵されている。しかし、その空を突き抜けるように、伸びる一つの塔が目の前に立っている。
古風で人を寄せ付けない、厳格な空間を作る建物である。軍ではあれを禁足地の古塔と呼ぶ。
この要塞都市は、この禁足地を守るためにできたという説もあり、人類統率軍の中では、あそこに何があるかを知る人間はごくわずかである。
僕は不思議と塔に心が寄せられた。あそこに行って見たい。 あの塔に行けば僕の人生は大きく変わるかもしれない。
「ダリウス、訓練の時間だ!」
ドア越しから教官の声が聞こえる。何度もドアをたたき、僕を呼びかける。
まるでつまらない現実が僕のことを捕まえるように追いかけてくる。
僕は、最低限の物を詰めて、窓を開けて、思いっきり飛んだ。ギリギリのバランスを保ちながら、不格好な姿で鉄筋に飛び乗った。
「すいません教官、僕はもうこんな生活は懲り懲りなんですよ」
正直情けない気持ちもあったが清々しかった。
これからはもっと自分のために生きる。教官の声を置いて僕は風を切って走る。
しばらく走ると徐々に息が荒くなり、僕はスピードを落とし、鉄筋の上にゆっくりと座った。足を鉄筋から投げ出す。風が僕を包む。とても気持ちいい。今日の見る空は、なんとなく憂鬱には感じなかった。
「本当に逃げちゃったよ……」
普段の自分なら絶対しない大胆な行動、これからのことを考えると後悔しかないが、今まで生き方では自分は変えられない。
僕はおでこの汗を拭い。また走り出す。目的地は空をすらも超える禁足地の古塔だ。
塔に近づくにつれて、都市部を覆っていた人工物は少なくなり、足場にしていた鉄筋の数を心もとなくなっていた。これ以上は進めないと考え、僕は鉄筋からゆっくりと下り、地面に足を着ける。土の地面は硬かったが、コンクリートの地面とは違い熱くはなく、また所々緑の草が咲いてる。
「すごい……まだこんな自然が残ってるんだ」
地球の多くの場所が人の手で整備され、住みやすい場所にされた。移動が簡単なコンクリートの道、虫や雑草を排除した綺麗な街、そして完成した便利で綺麗で冷たい場所、地球上にたくさんそんな人の身勝手さが生んだ街がある。
しかし、ここは違った。虫は羽を鳴らし、自分の存在を示すように、誇らしく飛び、花は自分が一番綺麗だと自慢のドレスを見せつけるように、頭を揺らしながら風のダンスを踊る。その姿は可愛らしい少女だった。そして大木たちは、人間のような大人なんかよりも、頼もしい。鳥たちの憩いの場所になり、小動物たちの井戸端会議の開催地、ここは人が失った多様性がある。僕がずっと小さい頃から感じていた世界が偽物であること、この世界が僕の住むべきではないこと。僕はこの風景を見て確信した!
「元々、地球はこんなに多様性があるんだ! やっぱり僕の住む世界は偽物なんだ! この自然が答えだよね!? 僕たちが住むべき世界はこんなみんなが自信と誇りを持って自由に生きれる世界なんだ!」
草花が風に吹かれ、頭を揺らす。僕の意見に肯定してくれた気がしてとても心が幸せでいっぱいになる。
しばらく進んでいくと、大木は減っていき、見渡しが一気によくなる。そして僕の目の前に壮大な塔が現れる。
「大きい……」
禁足地の古塔は高さも存在も大きく、時間すらこの塔に干渉できない。そんな神秘性を秘めていた。
僕は、大きく深呼吸して塔に近づく。塔には、不可解な文字が書かれてる。僕は、それが理解できなかったが、なんとなく塔を讃えている文章だと感じた。
僕は勇気を出して深呼吸してゆっくりと扉を開けた。扉は頑丈な作りをしていたが思った以上に重くなく、びっくりした。
中は暗く、埃被っていた。暗く天井には蜘蛛の巣が張ってあった。蜘蛛はダリスの存在に気付くと一目散に逃げ始めた。軍の寮と同じくらい埃っぽい……いやなことを思い出しそうになる。
「お邪魔するよ」
扉から出る光だけではもう中はわからない。僕は、ポッケから軍から支給された無駄に火力のある軍用ライターを取り出して明りの代わりに火をつけた。
火は小さい範囲だが、僕の周りをゆっくりと照らし出す。僕はそれを頼りにゆっくりと歩きだす。
しばらく歩くとライターは必要なくなった。僕が歩くと急に明りが付いたからだ。
明りが付いたエリアは、同じ塔の内部とは思えないくらい、清潔で埃の一つもない場所だった。
壁は、医療施設のような白に統一されていて、たくさんの本が置いてあった。本は真っ白で何も書いていない。とても綺麗だが、空っぽな場所そんな気がした。
僕は、この清潔な場所がとても居心地が悪いが気がした。そして僕は、禁足地の古塔に入ったことを強く後悔した。軍の規則を破った。そのことの重大さが体に染み込んでくる。
「謝って済まされる話ではないか……」
顔が蒼白になり、うまく表情が出せない。足が竦み始める。もし見つかれば軍法裁判にかけられる可能性だってある。
この塔にある秘密は、僕が想像していたような冒険譚の始まりではなく、目を逸らしてしまうような悲劇の始まりかもしれない。
いや、止まるな! いつも僕は未来を恐れて動くことができなかった。ここで戻ったところで僕の訓練をさぼった以上、僕の懲罰は確定事項だ。もうジメジメした埃っぽい部屋で朝早くから戦い方を学ぶなんて勘弁してほしい。僕が主役で僕の才能が存分に発揮できる世界! これに尽きる。
「ここで止まれば変わることはできないぞ! ダリス・アーサマー」
僕は拳を天井に突き上げて自分を奮い立たせる。そして大きく大股を広げて歩く。
しばらく歩くと、道はなくなり、扉が僕の目の前に現れる。最初の塔のような厳かなものではなく、軍の寮のような簡素な扉だった。扉に小さな窓の下にガラス作りのネームプレートが掛かっている。
『Hello Taboo|(こんにちは禁忌)』
「なんだこれ」
僕はネームプレートをまじまじと見る。どっかの三流作家が書きそうなタイトルみたいだった。
僕は恐る恐る扉を開ける。扉を開けるとピンク色の壁紙とカラフルなぬいぐるみが僕を迎えてくれた。そして、大きな黒鉄の時計が僕を見上げている。
「誰?」
ぬいぐるみからか細い声が聞こえる。最初はぬいぐるみがしゃべったと思い、びっくりしたが声の方から小さな白い手が見えて、僕は部屋主がいることに気付いた。
「驚かせてごめんなさい、怪しいものではないので顔を見せてくれないでしょうか? 決して変なことなんかするつもりではないので……」
僕は出来るだけ、相手に悪い印象を与えないような、出来るだけ笑顔を作って明るく元気な声で相手に話しかける。
「……」
とても居心地の悪い空気が部屋に流れる。僕はこの空気もとても苦手だ、何より慣れない笑顔がとてもしんどく僕は早くもこのドアを開くとことを後悔し始めた。なんとか次のアクションを起こさないと不味いと想っているのだが、うまく行動できないそんな焦りが僕の頭の中にエラーコードのように覆われる。
「ヒャ!」
急にぬいぐるみが動き出して僕は情けない声が出る。どうやら相手の方からしびれを切らしたみたいだった。
もちろん、僕も軍人の端くれである。そんなぬいぐるみが動くなんて非日常的なこと驚かないし、びっくりなんてしない。ただ心の準備足りなかっただけだ!。
クマのぬいぐるみから出てきたのは僕と同じくらいの少女だった。菫色の紫色の髪の毛に透き通る白い肌、そして汚れの知らない幼い瞳、お姫様のような青色のドレスを着ていて、足元もおぼつかない。同じような年なのに、幸薄で守りたいそんな母性が擽られるような少女だった。
彼女は僕にゆっくり近づき、ついにキスができる距離まで詰める。そして僕の頬を綺麗で小さな手でゆっくりと触った。
「男の子?」
心臓の鼓動がバクバクですべての動作がスローモーションで見える。女の子と話すことだって久しぶりなのに、それから一つ頭を飛び越えて触れ合うなんて僕の頭の中がさっきより混乱する。
「あなたは頭いい?」
少女は僕の目を見て問いかける。
「何でそんなこと聞くの?」
「私……知りたいの、世界のこと、生まれた意味を」
抽象すぎる少女の言葉、でもふざけたような表情は全くしていなく、真剣に僕を見つめる、綺麗なビー玉ような瞳だった。
僕の頭の中にあるのはただ一つだけだった……彼女を僕のものにしたい。僕は彼女に会うためにこの塔に来た。彼女こそが僕が目指すべき理想の世界に連れだしてくれるヒロインだと僕は決めつけた。
『無垢な姫に世界を教える。ロマンチストな少年の大冒険』
完璧なシナリオだ。だから僕はおじけず、自然な流れで彼女の腕をつかみ、そして出来るだけ甘い声で
話しかける。
「実は、僕も分からないんだ」
「わからないの……」
「でも君と一緒ならわかる気がするんだ、君のこと、この世界のこと」
「なんで私がいないとわからないの?」
僕は言葉が詰まる。できるだけかっこよく甘い言葉で伝えようとするが、少女は僕に立て続けに質問をする。まるで暖簾を腕押ししているようだった。
「……」
少女は頭を斜めにして、そんな僕を不思議そうに見る。その仕草もとても愛らしくて僕はドッキと心臓が跳ねる。
どうしよう……絶対僕、変な奴だと思われているじゃん
僕は本当は後世にまで読まれるようなロマンチックで甘く美しい言葉で想像力を書きたけるような言葉を話すはずだったが、残念ながら喉にも頭にもそんな言葉の残滓は全く残っていなかった。
僕は、頭を乱暴に搔き、そしてもう一度彼女の目をものすごく力強く見つめた。
「君が綺麗だからだよ! 僕は15年間生きて君みたいな綺麗な女の子を見たのは初めてなの! 君が存在する世界なら僕はこの大嫌いな世界を好きになれそう気がするんだ、僕は君と一緒に世界の真実を解き明かしたい。君のことが知りたい、だから僕が連れ出してあげるから一緒にこの塔から出よう!」
「……」
「つまりね、簡単に言うとね、君に一目ぼれしちゃったの! 僕にとって君はヒロインなの! だから分かんなくてもいいから一緒に君と行きたいんだよ!」
僕は全速力で走った後みたいに呼吸が乱れる、顔の体温が上り、少女のことを見ることが出来ない。自分の想いを他人にストレートに伝えたのは本当に久しぶりだった。とても後世に残るような名言には程遠く稚拙で自分勝手な言葉だった。
少女は、僕の肩をゆっくりと揺さぶり。僕を見る。
「クオーツ、それが私の名前、あなたの名前は?」
「僕はダリス! ダリス・アカーサマー」
少女はクマのぬいぐるみをピンク色のリュックに詰める。
「なんの準備しているの?」
「外に出る準備、ダリスが教えてくれるじゃないの? 世界のこと、私のこと」
僕は彼女の言う言葉をゆっくりと頭の中でこね回す――そして僕のみっともない告白が成功したことに気付く。
「ありがとう! クオーツ!、クオーツ本当にありがとう!」
僕は作業中のクオーツの腕を無理やり掴み、大きく縦に揺らす。こんなかわいい女の子と一緒に居られる。
そんなことを考えたら、この揺れた勢いでどこでも行ける気がする。体中に無限に生きたいとエネルギーが僕の体中に巡る。
「クマちゃんが……」
僕のせいで荷造りをしていたクオーツのバックからクマのぬいぐるみが落ちる。なんとなくだがクマのぬいぐるみが僕を恨めしそうな目で見ている気がした。
彼女はゆっくりと人形を拾って、大切そうに腕で抱きしめて僕を見上げる。
「次から気を付けて」
次は僕が恨めしそうに人形を見つめた。
「その人形は大切なの」
「この子は私が初めて人からもらった贈り物、他の人形は元からここにいた子たち、一緒に出るのは後から来た私たちでしょ」
「クオーツは最初は違うところにいたんだ」
「うん、曖昧で覚えないけどここではないことは確か、ここよりももっと騒がしくてぐちゃぐゃだった気がする」
「そうなんだ、もらった相手も分からない?」
クオーツは小さくうなずく。
「贈り物は大切だよね」
「お礼言えてないから、綺麗に使ってあげたほうが相手もきっと喜ぶ気がするでしょ?」
「そうだね」
僕はもっとクオーツを好きになれそうな気がした。
荷造りを終えたクオーツは周りの人形たちの撫でて、お辞儀をする。まるでファンタジーの呪いの儀式みたいな光景だった。しかしクオーツがやると禍々しさなく、とても愛らしさがある。そんな僕の視線に気づいたクオーツは僕の方を見上げる。
「何しているの?」
「お別れのあいさつ」
「え」
とてもメルヘンな回答だった。
「お人形さんにお別れのあいさつ」
「ダリスもやる」
「……」
「いや、いいよ、僕はよそ者だし、水を差しのも悪いからね」
「わかった」
会話を終えるとクオーツはまた人形たちに視線が戻る。たくさんある人形を一個ずつ丁寧に撫でてあいさつをする。目つきはとても真剣で今度は声をかけることは難しそうだと感じ取った。
僕はクオーツがあいさつを真剣にやるのは人形のお礼が言えなかった罪悪感ではないかと思った。
しかし、それは僕が彼女に言うべきことではない。彼女とこれから送る冒険譚に対して関係ないことだからだ、彼女自身の問題だ、クオーツが解決すべきことだ。
彼女のお別れのあいさつが終われば、これから僕と彼女の冒険の始まりだ。僕がいつも文章にしていた夢がここから始まる、それだけワクワクが止まらなかった。
さらに一緒に旅をするのは僕の目の前にいる可憐な少女、クオーツだ。ミステリアスで不思議な子だが性格が素直そうで僕にピッタリ!
しかし、僕はそこであることに気付く。
『これからどうしよう……』
自分を変えると思い、勢いよく飛び出たが、僕自身はちぽっけな収入もない兵士見習いだ。
何食わぬ顔で訓練寮に戻るのもありかもしれないが、どうしてもクオーツが目立つ。キツイ訓練から帰ってきた兵士達だ、クオーツの身が危ない可能性もある。
「やばいぞ、一気に雲行きが怪しくなってきたぞ……」
一気に背中からいやな汗が噴き出す。思考も漏れてしまいつい独り言を話してしまう
「ごめん、気にしないでね」
「本当だ、黒い雲が、近づいてきている」
クオーツは塔の窓を見ている 僕も慌ててクオーツの隣に行き、一緒に窓を見る。
セフィランに近づく、黒い雲……いや、目を凝らすとそれは数百の隊を成した機械の群れだった。
僕は奴らの存在をしっていた。僕が所属している人類統率軍の敵、自動殺戮兵器《ジャバック》
だった。
僕はクオーツの手を握り、走る。
「あれは何?」
「話は後! これから逃げるから絶対手を離さないで」
僕は彼女の温もりを忘れないように、いや彼女の温もりをお守り代わりにして走る。