ご当地では、初のお仕事
土地が変われば、風土も代わり、同じ内容の依頼の難度も変わる。
だからといって、小遣い稼ぎ程度でなく、いずれ旅の路銀と生活費を稼がないといけない。
今回は手始めに、掛け持ちできそうなのを選んでいこう。
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・冒険者について
一般に自称以外は、冒険者ギルドに登録している者を指す。
多くのマレビトの来訪の影響からか、ランクを記すタグと個人を表すカードが少し変更され、最近は多くのギルドが、タグを二枚にした。死亡した者の報告用と遺体識別用だ。ギルドが簡易銀行のまねごとも担い、カードはキャッシュカード・クレジットカード・ポイントカードなど統合カードになっている。
・依頼受注のランクとシステム(一部)について
ソロの場合の受注制限は、自分と同じのランクまでになる。フィナがDで、フィメがF。ちなみにウィだとCに、アンナだとAとなる。
パーティだと、同じクラス内で構成メンバーの最大ランクの一つ上までで、フィメ&フィナでは、Cまでが可能。クラスを越えての受注は出来ない。
受注は、依頼カードを受注カウンターに出し手続きをする。このとき依頼の難度に合わせて定められている、失敗したときの違約金となる保証料を支払う。
依頼の完了は、内容により異なる。
わかりやすい採取だと、納品となり依頼主に届る、指定の場所に届る、ギルドの納品カウンターに届けるとかだ。
・下位の色分け
E …… オレンジ
F …… レッド
G …… レッド(Fと同じ内容)
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C~Eの内容を見てからポンコツに抱き上げてもらっいレッド色で縁取られたFランクの依頼カードを数枚とり、受け付けカウンターに上半身だけよじ登った。上がっちゃうのはマズイっしょ。
移動報告のときの狐ミミのスタッフは出てきていない。人族のスタッフに依頼カードと登録カードを差し出した。
「これをお願いします」
横からポンコツが、わしを支えるようにしながら、言葉を出す。
「はい。すこしお時間を頂きますね。あちらに掛けてお待ち下さいね」
「はーいっ」わしは片手を上げて返事した。演技だよっ。
常時依頼の内容と重なるが、依頼者がいて鮮度とか急ぎで数を調達したいときは、報酬を上げて個別の依頼となるのだ。
少し離れたところに、ソファーのようなベンチのような、長椅子がいくつかある。ふたりはそれに掛けた。
わしは『うんしょうんしょ』と小声でつぶやきながら履き物を脱ぎ、ときおりポンコツの『お行儀が悪いから、やめなさい』の言葉を無視して長椅子を跳び渡って時間をつぶした。
二人の男達が、一瞬見せた値踏みをする視線に警戒した。
「フィメさぁーん、手続きが出来ましたので、おいで頂けますかぁ」
「はーい」とわしは返事をしたが、裸足だとマズイかと履くことにしたので、一歩遅れて受け付けカウンターに飛び上がる。
ポンコツが保証料を払い、自分のカードと薄いオレンジ色の受注証明書を受け取っているところに、追いついたので「ママ-、今日もお手伝いするねっ」と、頭上にマイスプーンとマイフォークを掲げた。
「はい、頼りにしてますよ」
ポンコツとは思えない高貴さで、わしに微笑みかけた。
受付嬢も引っ張られてか、わしに手を振りながら、「気をつけて行ってらっしゃいねっ」と言ったのでお返しに笑顔を向ける。ふふっ、わしはカワユイのだ。
昨夜の打ち合わせ通り門を出て、AFCから3人ほどがポンコツには悟られない範囲外でつかず離れず周囲を警戒してくれている。
引き受けたのは、野草採取。昨日は冒険者用のアイテム屋で地図を買い雑談を交えて情報を仕入れている。
土地の者なら、冒険者でなくても採取に行くことは出来るのだが、群生地と重なるように、普段はおとなしい小動物の住処とと重なっているが、今の季節は繁殖期で気が立ちやすく、攻撃されることもあるために、冒険者の出番となるのだ。
街道は寄り合い馬車を使い、途中から徒歩で移動した。
訊いていた場所に近づくと、遠目にわかるほど花を咲かせた群生がいたるところに見つけられた。
「わぁーいっぱいあるよ」
「そうね。取り尽くさないように、丁寧に分けて貰おうね」
こういった植物採取は、取り頃であっても全てを取り尽くさないように、ある程度残すように採取するのが暗黙の鉄則だ。
懸念の障害になるはずの動物は、アイテム屋の情報通り、夜行性で件の植物の花のにおいを嫌って姿を見せなかった。
あっ、きそう。わしは、ポンコツに気づかれないように風下の茂みに移動した。
オムツは履いているけど、やっぱりねぇ。大違いなのだよ。
するっと下げ腰を落とした。
腰を下ろしたときに風が吹き、草の葉が敏感な部分をなぞった。
「ひゃあうっ」
思わず声が出て、口で手を押さえた。もといっ手で口を押さえた。
ポンコツに気づかれてないかそっと伺う。
ほっ。
手早く用を済ませて、持ち場に戻った。
ある程度たまったので、本数を合わせて束を作っていき、本数を数えると依頼されていた数を採っても、まだ手付かずの群生は大小含めてたくさんある。そこで追加もOkだったことから、陽の落ちないまでに帰り着くことにしてもう少し採取することにした。
気づくと持てない程採取していたので、余剰分だし持てない分は、インベントリィのカバンの他、アイテムボックスへも入れた。
「いっぱい採れたね」
「もぅ帰ろっか」
こくんとうなずく。
AFCが前もって、危険となりそうな対象の露払いをしておいてくれたおかげで帰路にも障害に出会うこともなく、町の門までたどり着いた。いつまでも頼るのは良くないので、あとはポンコツの成長具合だな。
町にもよるが入るには、通行料が必要となる。しかし依頼の受注証明があれば、必要ない。
門に立つ役人に見せ、門をくぐると殆ど隣接した所に、ギルドの受取所がある。
受注証明は、ランクによって少しずつ色が違う。これは報酬が違うため分かりやすくしているかららしい。
AFCの見守る中、周辺にたむろしている人混みをかいくぐり、わしらは受取所に入ろうとしたところを、大柄な男に体重で負けるわしらは、簡単に引っ張られた。
「あっ。つぅ……」
手から受注証明と採取した依頼物を取り上げられ、二人は突き倒されて地面に転がった。
勢いを付けた男の足が、ポンコツの脇腹に食い込んだ。
わしは別な誰かに背中を踏みつけられている。そのままでは起きられないので伏せたまま頭を上げると苦痛に歪む顔、うめき声が聞こえる。
「ちっ、しけたのばっかだな。ろくな仕事してねーで、次はもっとましなのをするんだな」
去っていく男達の後ろ姿を見ながら、ポンコツに駆け寄った。
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