余計な情報
朝の陽が窓から入って来つつあり、あまり余裕はないか……。
今の称号は『』で、なにも付けていない。
無理矢理抜け出せないこともないが、寝汗の臭いも我慢してここはひとつ昨夜の整理だ。
WFCって、ワールド……ファイティング……何かのスポーツ団体みたいだな。それも地下団体ぽくないか?
「フィナちゃん、おきてる?」
頭上から、まだ眠そうな声がした。腕が緩まり、離れようとしたら、くるっと半回転させられて、貧弱な弾力の薄い胸板に押しつけられ延々とお説教された。
話しはよく脱線をして理路整然としてない上、お菓子の食べこぼしがついたシャツは甘ったるい臭いとべとべとしていて、地獄だった。
おなかが『くぅー』と鳴るまで続いた。鳴らしたのはわしじゃないぞ。
だがしかし、階下の食堂に降りるだけなのに、いつ用意したのかわしは、趣味じゃない着せ替えを何度も繰り返して、だっこされた形で護送され、やっとテーブルにつくことが出来た。
「はい、あーんして」
どんな羞恥プレイだよっ。たぶん4歳児だぞ。加えて中はおっさんだぞ。まだ続くのかよぉ(>_<)
永遠に続くかに覚える罰ゲームも食材が尽きれば贖罪も終わる。
ぐったりである。
しかしここは、旅の冒険者として、路銀のため今日はクエストをしないと、ただの羽振りのいい旅人になっちまう。
うん。ポンコツさんはマイペース。この宿、町でも高級な方で、一週間押さえちまってる。
旅立つ前に、質素倹約が修行の一つだからねってあんだけ言ってたのだよ。まるで聞いてない。
言ったのっ!
やられたら、やり返す。さぁ部屋に帰ったらお説教タイムだ!
ぐっ、甘かったのは、わしの方?
わし、(とりあえずだが設定は)4歳児なんだからねっ。ポンコツを見上げて抗議する。
食事が終わり、旅の冒険者なんだから今日は冒険者ギルドで路銀を稼ぐからねと告げた。
装備を付け、遮光のためフードを被ったわしをじっと見ていたポンコツは、オムツ以外を全て引っぺがして、「春はこうでないとねっ」とか言って春ものワンピに着せ替えられちまった。
これからクエストを受けに行くのに、フツウにお出かけする幼児じゃねえかよ。オマケに直射日光はだめだって言ってるのによを。
「ちゃんと、日傘と帽子もあるわよ?」
さいですか。(-.-)
何着か連続で着替えさせられ、やっと一点に落ち着いて10数分後、わしはポンコツの腕に抱えられて、街を散歩している。日差しが強くて、顔が熱いぜ。
深く被った帽子でカモフラージュできてるだろうが人前で頭髪とエルフ耳を晒したくないのもある。
ポンコツなのにママモードを発揮したら、なぜか捕獲から回避しにくい。
プライベートレベルで、わしはLv.32あるのに対して、ポンコツはまだLv.12なのにだ。
推測で逆算すると、魔物討伐は、パーティレベルがCかBぐらいで、Lv.7~9程度だったろう。
なんでだよ。
おっ日蔭か?
一軒の洋装品店に入っていた。店員が出てきて、わーきゃー喋り出す。
おっちゃんは、ついてけませんよぉ。腹ん中じゃ、母娘でカモが来たとか思われてんだろうねー。
「まぁー、おじょうちゃんカワヰイ♪」
ほらきた。
「でしょー(*^o^*) パパ似なのっ」
声を弾ませながら、わしの帽子を取り上げようとしたから、ばっと手で押さえたが、勢いよくとられてしまった。
店員と目が合い、不本意だが、ポンコツに顔をうずめる。
銀髪エルフは、ダークエルフの特徴で、金髪碧眼のエルフと違って忌避される地所もある。
それを知ってか知らずか、双子のお姉ぇちゃんがいて、ちゃんと金髪なんだけどこの娘はアルビノに産まれてしまい、人前に出たがらないの。とか、お姉ちゃんはパパが見ていてお留守番なの。など余計な情報と設定を嬉々として喋るポンコツ。
「お若いお母様」とか言われ自称17歳41kgだと宣わっていたのに、ママロールにハマってしまってハイになってやがる。
げっ!
わしは、見てしまった。店内の一角に子供服のコーナーがあるじゃないか。
しまった。店員に察知されたぞ。
「あちらに、お子様にとってもお似合いのもご用意させていただいてますが、ご覧になりますぅ?」
「ぜひ見せていただくわ」
「お母様と、ベアになるのも何点かございますがー」
ここでもまた、マネキンになるわし。
部屋を出るまでに、さんざん削られた、心のHPがまた削られていく。
なぁ泣いてもイイか?
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
さて、ポンコツさん。冒険者としての活躍の場はあるのでしょうか。心配になってきました。