三章 出会い
AbilityStudySchool。
略してASS。それが私達の学校だ。
全世界から能力者、無能力者を集い、その子らを育成し常識ある能力者に育てる機関であり、
乳幼児から成人まで幅広い年齢の生徒が、この学校には居る。
多くの学生は、この学校生活で能力がある、ない生活と環境に対して学んだり、
規則、法律に対しても学んでいく。
常識ある能力者というのは、
やっぱり凄い能力を持った人は、その欲望に負け犯罪を犯す人も少なくない。
だから、そういった能力者を増やさない為にも、またそういった能力者を取り締まる為にも能力者犯罪について、対策や対抗手段なども実践授業として習っていく。無能力者も簡単な護身術から、能力者と戦って気をつける事などを1年の時に叩き込まれた。
昇降口に辿り着いた時、その奥に大きな掲示板が見えた。新学期からの新しいクラス分けが貼り出されていた。優花もゆっくり掲示板を見に行く。夏海は期待と好奇心を胸に掲示板の自分の名前を探す。自分と同い年の学生だけでも有に千人を超えているので、探すのも一苦労だ。
「あ、夏海ちゃんの名前あるよー」
右の方で優花がニコニコしながら手招きしていた。優花の所まで歩いて行くと、優花の名前の上の方に自分の名前を見つける。
「2-X…一緒のクラスだねぇ」
優花は凄く嬉しそうな顔している。1年の時からずっと一緒ではあったんだけど、優花は一緒に居られるという事が嬉しいんだと思う。この学校では基本的に自分たちの教室、というものを持たない。それはこの学校の敷地的な限界もあるが、人数が多い事が多分一番の原因だと思っている。教室を持たないという事は、同じクラスでもあまり顔を合わす事がない、という事だ。このクラス分けも、実際のところは環境が変わっても馴染める協調性と冷静さを養う為とか、特に意味はないとか色々言われているらしい。まぁ、無能力者にとっては結構有難かったりする。言うまでもないけど、やっぱり酷い虐めは無いけど、馴染めない感が一度出るとやりにくさは少なからずできる。実際、1年の頃はそういう雰囲気が何処となくあったから、その時のクラスに馴染めなかった。自意識過剰かもしれないけど、でもやっぱり無能力者は何処にいっても肩身は狭い。
クラス分けが分かった所で、一旦体育館に移動する。
夏海と優花が体育館に着くと、生徒達は沢山集まっていて、壇上には先生の姿が見えた。
「はい、これで全員ですね」
私達を見て先生は言った。夏海と優花は恥ずかしがる様に生徒に紛れる。
「今日から新しいクラスです。また今日からは特別授業が始まります。これによって新たな能力に目覚める人も居れば、既に持っている能力の技術を大幅に高める事も出来るでしょう。
全ては特別授業に置ける、君達の姿勢や熱意によって変わります。また、先生や講師方の教え方、実技方法によっても変わるでしょうね。
皆さんは、この特別授業に対して貪欲に励んでください。
では、これから担当する先生と講師を紹介しますーーーーー」
先生の話を聞きながら、夏海の胸は高鳴っていた。無能力者でも、この特別授業で能力に目覚めたという噂は結構聞いていて、夏海自身も特別な想いを持っていた。期待し過ぎて前半の紹介部分を聞きそびれた夏海は、ハッとなって顔を上げる。すると、視界に入ってきたのは明らかに周りと雰囲気の違う人だった。
「時坂リョウ。
受講者は望んでいない。やるだけ無駄だ。俺以外を選べ」
それだけ言って、自分の席に戻っていった。案の定、夏海の周りの生徒は騒ついた。夏海自身も適当な人も居るんだ…と思っていたが、それと同時に言いもしれない恐怖感があり、好奇心が湧いていた。
「ーーーーー以上が、この特別授業にあたってくれる先生、講師の方々です。
では、これより生徒皆さんは自分で先生、講師を選び、特別授業を始めていってください。」
先生の説明が終わってから残って相談し合う生徒や、すぐに移動する生徒などもいた。夏海は特に話を聞いていなかったので、優花に聞いてみる事にした。
「優花は…どの人が良かったの?」
「夏海ちゃんは、どの人が良かったの…?」
同じタイミングで聞かれて、少し戸惑っていると、優花は
「一緒に聞いちゃったねぇ。夏海ちゃんは、どの人が良かったのかなぁ…と思って。気になる先生は居た??」
そう聞かれたが、夏海はすぐに返事出来ない。えーと、あのー、という言葉を口にしてると夏海と優花の隣から
「アンタ、寝てたもんね 笑」
と割って会話に入ってきた子がいた。
霞瑠夏。夏海の幼馴染で腐れ縁。何かと夏海に張り合う女の子で、導火線(Fuze)の持ち主だ。
咄嗟に瑠夏に「寝てないよ」と反論するが、夏海の言葉に被せるように瑠夏は、
「で、誰が良かったの?
私的には炎術師(Fire-men)の道明寺拓也か、収束(Converge)の小野Juhnかなぁーーーー」
と自分が言いたい事だけを言ってくる。瑠夏の能力的に炎術師(Fire-men)の方が相性がいい気がする。瑠夏の能力、導火線(Fuze)は自己発火こそ出来ないが、炎を纏うもしくは、炎を受けるとそれを自分で操る事が出来るらしい。また、身体能力も炎を纏っていると少し上がったりするらしい。私の前では、能力を見せた事は無いけど、噂では結構凄い能力らしい。
「ーーーーー話聞いてるッ?!」
瑠夏の能力について考えていると、瑠夏が顔を真っ赤にして声を上げた。
話を聞いていなかった訳ではないが、瑠夏は話をし始めると割と長い。
「で、何だっけ?」と夏海が言うと、
「結局アンタは、誰にするの?」
と、ため息混じりに言った。
「うーん……、時坂…リョウ…」
と無意識に夏海は呟いた。すると、優花と瑠夏は声を合わせるかのように、
「時坂さん…?」「えっ、あんなのがいいの?」
と言った。夏海としてはまともに聴けた名前が彼だけだったのだが、2人からすると予想外だったらしく、かなり驚いていた。確かに、挨拶の時点で教える側としては相応しくない雰囲気だったなと思い出していると、優花と瑠夏は不思議そうに何処が良いの?と聞いてきた。
「しいて言えば他の人と違うところ…かな?
能力の紹介もしなかったし」
と答えた。事実、時坂リョウは自己紹介と受講者拒否だけした。その態度や雰囲気に何か異質的なものを夏海は感じていた。
「ふーん、ま、誰でも良いけど、
あの人(時坂リョウ)は止めた方が良いんじゃない?
無愛想だし、感じ悪いし」
と瑠夏はぶつぶつ言っていた。
優花は…というと、「そうなんだぁ」と感心したように頷いていた。
そうして2人と話していると、後ろの方で話し声が断片的に聞こえてきた。まるで、私達の会話を聞いていたように。
「「ーーーーだから、ヤバイんだって。あの、時坂ってやつ。噂によれば、人殺しなんだってさ!ーーーー
マジマジ。ムカつく奴居たら全員殺してるらしいよーーー
だって、あの目見た?ヤバイって。先輩達もアイツだけは止めとけって言ってたしーーーー」」
内容はかなり過激なものだった。
ただ、夏海はその話を聞いても共感出来ずにいた。確かに一瞬見えたその眼の奥は得体の知れない恐怖感があったものの、イコール人殺しには結びつかなかった。ただ何故?どうして?と疑問ばかりが浮かんでいた。すると、
「ま、確かめてみなきゃ分かんないだろうけどさ。後悔しないの?」
と瑠夏が言った。一番悪ノリしそうな瑠夏が、言ったのが意外だった為夏海は驚いたが、その言葉に対して夏海はすぐに
「ホントの所は分からない。けど、何か感じた。それを信じたい。」
と口にした。それはほんの無意識的な返事だったが、
「昔から、コレと決めたら集中するのは夏海の良いところかもしれないけど、悪いところでもあるから、アンタが後悔しないって言うなら、とりあえずはなんも言わない」
瑠夏はそう言って、やれやれと困ったように溜息をついた。優花も「そうだねぇ」と瑠夏の言葉に同意するように頷いていた。
それから、夏海は瑠夏と優花と一旦分かれた。
学生寮や校舎から少し離れた植樹区間を進み、外灯が無い小道を進んでいくと、
やがていくつかロッジのような建物が見えてきた。その奥の方にかなり大きな闘技場のような建物があった。
その闘技場は明らかに他とは空気が違うものだった。ロッジのような建物はアットホームな感じで暖かい雰囲気が漂っていたが、闘技場は酷く冷たいというか、本能的にあまり好きでは無い感覚がした。ただ、自分が目指す場所はその闘技場だと思っていたので、深呼吸して少し落ち着いてからゆっくり進んでいった。
闘技場の門を潜ると開けた場所に出た。
見ると、その真ん中に男が立っていた。