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自称占い師 ライル・ロー(2)

ライルとグレネは東噴水広場の近くでジーガたちと別れた。アッカは「お前も手伝え」と言っていたが、グレネを送り届けることを口実にして、なんとか逃れてきた。



このあたりは立ち並ぶ建物もおしゃれで、雰囲気もだいぶ明るい。すれ違っていく人たちの数もかなり多くなる。夕焼けが街も道行く人の顔も、全てを赤く染め上げている。



ライルとグレネは並んで歩いた。ライルがちらりとグレネを見る。やはりグレネは美しい。度の過ぎた美少女だ。すれ違う老も若も男も女も、みんな彼女を振り返る。男はグレネの胸にも釘付けになっている。



だがこの度の過ぎた美少女はストーカーでもあるらしい。十年間もライルのことを監視していたというからかなりのものだ。そしてライルは美少女でストーカーの彼女からいきなり告白された。



― あなたの愛を手に入れる為に、ここにきました。 ―



何だか妙な言い回しだが、告白なのだろう。こんな美少女から告白されたのだから、少々ストーカーでも別に構わない。喜んでお付き合いさせていただきます。しかし、だ。彼女は本当に普通のストーカーなんだろうか?



「疲れたか?」



「そうかもしれません。街の活気に当てられたのかも」



グレネは、んーっと体を伸ばした。



「そういえば、さっきジーガさんが人の運命をいじるとかなんとかおっしゃってましたが、あれはどういう意味なんですか?」



「ん?そのことはその手帳に書いてないのか?」



ライルはグレネのカバンに目をやって言う。グレネはハッとしたように、手帳を取り出してページをめくる。しかし、手帳にはそれらしいことは何も書かれていなかった。



「私はライルさんの全てを知っています。これにはライルさんの全てが書かれているはずなのに……」



グレネは手帳をめくりながら独り言のように言った。



「なるほど。それの力はああいうことには及ばないのか」



「私に何を隠しているんですか?」



「俺はグレネに隠し事ができなんだろ?」



「そうです!私はライルさんの全てを知っているはずなんです。だから何を隠しているのかおっしゃってください!」



ライルは目茶苦茶なことを言うグレネに苦笑するしかないが、グレネは本気だ。ライルは仕方なしとため息をついた。



「俺はこの手で、実の妹の首を切り落としているんだよ」



一瞬、グレネの顔から全ての色が抜け落ちたようになった。



「どうして……」



グレネがやっと一言を絞り出した。どうしてライルはそんなことをしたのか。どうしてグレネはそんな重大なことを知らなかったのか。その「どうして?」には様々な「どうして?」が渦を巻いている。




「どうしてと言われると、仕事で……と言えばいいか」



「仕事って……、どんな仕事をしていればそんなことを……」



「占い師」



「は?占い師?なんですか、それ……」



「ジーガが言っていただろう、人の運命をいじるようなことって。それにさっき、おまじないで人の流れをいじったし」



「そんな、どうして……。

 何よそれ!?

 私は知らない!

 そんなこと、私はあなたの全てを知っているはずなのにっ!!」



 グレネは感情を爆発させて叫んだ。爆弾ようなような叫びは文字どおり衝撃波となってあたりの窓ガラス十数枚を叩き割った。ライルは耳を塞ぎながら驚きで目を見開く。美少女も度が過ぎてくると、叫びで窓ガラスを割ることもできるらしい。



 当のグレネは全く気にかけていない。グレネはこの十数年間、ライルのことを全て知っていると思い込んできた。しかしライルが自分の妹を手にかけたこと、そしてライルが占い師だということなど何も知らなかった。ライルがやって見せた「おまじない」のことも知らなかった。



(「それの能力はああいうことには及ばないのか」)



 ライルはグレネの黒の手帳を見てそう言った。普通、手帳を見てそんなことは言わない。確かにこの黒の手帳には特殊な能力がある。その能力によってグレネはライルについて知ることができていた。しかし一般庶民がその存在や能力について知るわけがない。グレネは手帳を握りしめながら、ゆっくりとライルに聞いてみた。



「ライルさんは、この手帳が、何なのか、知っているんですか?」



「魔女の皮の手帳だろ?」



なんということもなく答えたライルに、グレネは驚きで息が止まった。



ライルはその反応をみて確信した。グレネはただのストーカーではない。魔女の皮の手帳とは、文字通り魔女の皮を剥いで、伸ばし、なめして、一枚一枚の頁にするという非道によって造られ、指定した人間について教えてくれるという魔具の一つだ。そんな外道の道具を使うストーカーがただのストーカーのわけがない。



グレネは大きく深呼吸を繰り返して、なんとか落ち着こうとする。グレネ達は今まで長い時間をかけてライルのことを調べて、準備を整えてきた。だがグレネ達はライルのおまじないという妙な特技や、実妹の首を切り落としていることなどを全く知らなかった。それは大きな計算違いだった。



認めざるをえない。グレネ達はライルについて何も知らないのと同然だということを。そしてこのままだと彼女たちの計画に大きな支障をきたすことを。



グレネはやっと冷静さを取り戻した。そして、無駄だろうとは思いながらこう聞いてみることにした。ライルがどう答えるかは大体予想が付いていたけども。



「ライルさん。あなたの秘密を全て教えていただけませんか?」



「男には自分の世界がある。その方が楽しいだろ?」



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