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最期への共同作業(5)


「だからあんたは木偶人形なのよ」



グレネの暗闇に、若い女の大声が響いた。

ロロ・セロンが呆れ果ててグレネを見下している。



「………人形はそっちでしょう」



グレネが目を赤くして生首状態のロロを見るが、いつもの迫力は影もない。



「私はあなたなんかと違うのよ。

 私はライルに触れられるためなら、自分だって殺せる。

 でも、あなたはには欲がなくて、自分も他人もキレイなままでいたいだけ。

 だからあなたは木偶なのよ」



グレネは涙を拭いて自分を見下してくるロロと向き合う。



「私も、ライルさんに触れられたいです」



「それであなたは何をしてきた?

 ライルの生活の監視?

 うまくいかなくなったら力ずくで殺す?

 それで触れられたい?

 ばかじゃないの?」



「何が……おかしいんでしょうか?」



グレネはロロを睨む。だがロロの言葉を求めていた。

生首のロロが眼の前の人形のような美少女を憐れむようにしていう。



「あなたは人を操り人形だって思っているのよ。

 ライルを監視して彼のすべてを知ろうとするのは、人形を分解することと同じ。いくら分解してもそこにライルがいるわけないのに。

 力ずくで殺そうとすのも、気に入らない人形を壊すのと同じ。

 あなたはライルを自分を慰めてくれる人形として見ているのよ。

 でも人形は愛撫をしてくれない。

 ライルを人形扱いするあなたが、ライルから触れられることなんてないのよ」 



ロロの面詰に、グレネの手が、足が震え出す。唇が戦慄き出す。顔面が蒼白になり、見えているもの聞こえているもの全部が真っ白になっていく。

グレネは両手で顔覆った。そして声を噛み殺して泣いた。

あれだけ人形のように扱われることを嫌っておきながら、ロロに反論できない。

それが恥ずかしくて、許せなくて、自分を殴りつけたくて、グレネは身を震わせて泣いた。

しかしロロの叱咤がそれを遮る。



「泣いている場合じゃない!ライルが死にそうなのよ!」



「…………私は、どうすれば?」



グレネは涙をためた目でロロにすがる。

こんなグレネは初めてだ。

調子が狂いロロは顔をしかめる。



「あなた次第よ。ライルはあなたに選ばせたんだから」



「ですが、ライルさんの……その、私への気持が……」



「この木偶!

 ライルがあなたを振り返ったときどうだったか、思い出してご覧なさい!」



「あなたに見えたんですか?」



「見えなくても、そのくらいわかる。忌々しいけどね」



「…………ライルさんは、笑っていました」



「なんでだと思う?」



「それは……」



「自分を殺そうとしている女に笑ってやれる。

 それがどういうことか本当にわからない?」



ロロはグレネを叱った。

グレネは立ち尽くし、俯き、考えた。

嫉妬に狂い、赤くなった視界で見たライルを思い出す。

グレネはあのライルの笑顔を見て、我に返ることができた。

どうして?

それはグレネもライルの気持ちを悟っていたから。



ライルの笑顔の意味がわかってきた。

ロロが言うことの意味がわかってきた。

もう泣いてはいなかった。

また手が震えてきた。

胸が高鳴ってくる。

冷たい体の中が暖かくなる感じがする。

顔が火照ってくる。

にやけてくるのを抑えることができない。

グレネは涙を拭い、両の頬をパシパシと叩き、顔を上げた。



「ありがとう」



その言葉は、グレネが自分でも驚くほど素直に出てきた。



「貸しだからね」



ロロはつばでも吐きたそうな顔で答えた。

グレネはふっと笑顔を漏らすと、ライルのもとに駆け寄った。



暗い墓地の地下で、血を流し倒れた男に、輝くような美少女が手を差し伸べる。

離れたところにいるロロには、その姿が完成した一枚の絵画に見えた。

この絵は悪くはない。

だがロロは憮然としている。

ヒロインが私だったらもっといい絵になるはずだ。



「ちょっと優しすぎるんじゃない?」



ロロから愚痴が漏れたとき、グレネの手がライルに触れようとしていた。


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