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最期への共同作業(1)

ライルはグレネの姿に見入った。

輝く銀髪。

はだけた制服から惜しげもなく溢れる巨乳。

スカートの破れから覗く白い太腿。

獣のようにギラつく瞳。

氷の女王かと思うような美貌。

胸元に黒く空いた傷口も、一級のアクセサリーのように見える。

黒い泥が背景となり、グレネが持つ高貴さを一層魔的に際立たせていた。



ライルは魔をまとったグレネを美しいと思った。

だが、初めて会ったときのように、胸が高鳴る事はない。

ライルの鼓動が、機械のように規則正しく脈打っていく。



ライルとグレネの視線がぶつかった。

グレネは生贄を見つけた魔獣がごとく笑う。

その笑顔ですら美しい。



先に動いたのはライルだった。

ライルは試しにあいさつをすることにした。

左手を上げて軽く振ってみる。

グレネはどう出るだろうか?



グレネは右足で床を蹴り、ドンっとライルに飛びかかった。

墓石を、石柱を、黒い泥を割り、突進する。

百年待ち望んだ獲物を食い殺さんとする魔獣のように突き進む。



無数の礫が飛び散り、生首のまま動けないロロに降りかかった。咄嗟にライルがロロをかばうと、それを見たグレネの瞳が狂ったように見開かれた。

グレネは絶叫した。

黒い霧を吐き、あたりのすべてを叩き割るように吠えた。

赤い稲妻が猛り、バリバリと音を立て所構わずに落ちた。



黒猫を封じた銀色の繭に、またザザザと赤いノイズが走った。

ライルはゆっくり、高く、剣を構えた。



 グレネがライルの首をめがけて白い両腕を伸ばした。ライルを逃さないために、捕まえるために、一つになるために、猛然と腕を伸ばした。



「ゾンビの怪力なら俺でもお前に傷ぐらいつけられるだろう。でも殺すには遥かに足りない」



ライルはグレネを見て、一人言った。



「魔女に呪われたお前を殺すには、こちらも魔女の力を利用しないといけない」



ライルの口が高速で動きだした。

銀色の繭が輝きを止め、またザザザと赤いノイズが走る。

だが今度はノイズが収まらない。それどころかどんどん拡大していく。

赤いノイズは一面に広がり、収斂し、力を増し、グレネが纏う赤い稲妻と見分けがつかなくなった。



繭の赤い稲妻がグレネに襲いかかる。だがグレネはそれを避けることも振り払いもせず、ライルめがけて突き進む。ライルの首はもう目睫の先だ。



ライルは口の動きを止めた。

そして息を大きく吸い込み、全身を震わせて咆哮した。ロロの大声にもグレネの絶叫にも負けない咆哮、いや、それは悲鳴だった。ライルは、すべての生き物を呪うかのような、人間の暗部を礼賛するような悲鳴を上げた。



グレネが驚いて、突進の勢いを止めた。

ライルの悲鳴にロロは意識を叩き割られそうになった。

ロロはこの悲鳴を聞いたことがある。

魔女だ。

ライルの悲鳴には、夢見の回廊の中でみた顔に黒いモザイクがかかった魔女が上げた悲鳴と、同じ魔が響いていた。



ライルが響かせた魔に、銀色の繭が共鳴する。

赤い稲妻を迸らせていた繭が、暗くなり、黒くなり、中心に小さな黒いモザイクが掛かった。

「あっ!」ロロがそのモザイクが何かを思い出したのと同時、繭の中心から黒いモザイクが爆発的に広がった。黒いモザイクは地下墓地を、泥を、ロロを、グレネを、ライルをすべてに覆いかぶさり、手の届かない向こう側へと隠し去ってしまう。



グレネはまたライルを見失った。

闇の中に一人取り残された。

孤独の恐怖がやってくる。

一人ぼっちのグレネは怒り、吠え、そして泣くような絶叫を上げた。



「お前は魔女の呪いを分かちあった眷属を食った。そいつらは魔女とつながっている」



ライルはヴェロニク・ブランキーのオフィスで、カーフィンクの部下たちが出した黒いモザイクに呑まれて瞬間移動をしたことがある。魔女の空間とグレネの家臣はつながっている。



モザイクの中からライルの声が反響して聞こえてくる。

グレネは剣を取り、モザイクを切り裂く。

だが手応えはなく、モザイクはザザザと剣に覆いかぶさり隠してしまう。



「黒猫も魔女とつながっている」



反響のせいでライルの声がどこから聞こえてくるのかわからない。

グレネは遮二無二腕を伸ばすが、地下墓地の石柱が砕けるだけだ。



「俺は黒猫を捕まえて、魔女への回路を開いた。

 これでやっとお前に届く」



グレネの絶叫が音響兵器となり墓地を手当たり次第に破壊する。

ライルが全身のありったけを使って、剣を突き下ろした。

黒いモザイクと赤いノイズの中で、肉を裂かれ、骨が砕かれ、皮膚が突き破られる鈍い音がした。



そしてグレネの絶叫が止んだ。


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