死者を殺すと黒猫が嗤う(5)
黒猫の傀儡となったライルが、うめき声をあげ、ロロの首めがけて剣を振り下ろした。
ロロは目をつむらなかった。その大きな瞳をいっぱいに開けて、せまる剣を、ライルを見つめ続けた。剣が脳天を割ろうとする瞬間まで、ライルを信じた。
ガギン!
剣はゾンビの怪力で墓石に突き刺さり、不快な金属音が響きわたる。他には何も音をたてない。金属音が暗がりへと吸い込まれ、不気味な静寂があたりを支配した。
終わった。黒猫が両の目を細める。
階下でグレネが巨石を押しのける音が響いてきた。ぼやぼやしていられない。黒猫は煩わしい仕事の出来を確認すべく、ロロの生首が乗っていた墓石に飛び乗る。
黒猫がそこで目にしたもの。墓石に突き刺さる長剣、叩き割られた携帯端末、飛び散った水銀、そして笑っているロロの生首。生首は無事。ロロは生きている。唖然とする黒猫。
「残念でした!」
ロロは舌を出して黒猫を嗤い、勝ち誇った。
バカな!
なぜライルの剣が逸れた?ゾンビだからか?ならば、と、黒猫は飛び退り「ライルもう一度よ。『塵に返しなさい!』」と命令を下す。
ライルは低くくぐもった唸り声を上げて、態勢を立て直す。頭を抱えて、ゆっくりよだれを拭いて、だるそうに口を開いた。
「あー、頭がクラクラする……」
「え……?」
その声は仮死になる前の、張りのある声で、肌は青紫から血色がもどり、姿勢も真っ直ぐになっている。もうライルの仮死状態が切れた?戸惑う黒猫は2、3歩よろめき、後ろ足を水銀の極小の飛沫に触れさせた。
ライルはそれを見逃さなかった。剣の柄を両手で握ると全身に力を込めて、墓石に突き刺さった剣を引き抜いた。割れた端末からパチっと小さな火花が飛ぶ。すると、黒猫に触れた水銀の飛沫が銀色の閃光を放った。
「!?」
黒猫が閃光に驚愕したときには、後ろ足が銀色に輝く水銀の紐で縛り上げられていた。結界か!?
それでも黒猫は、なんとか逃れようと、前の両足で床を蹴る。だが、その両足もまたたく間に水銀の紐で縛り上げられ、黒猫の体が墓地の床に転がる。そこに無数の銀の紐が一斉に飛びかかった。
「ラ…………」
黒猫が何か叫ぼうとしたが、銀の紐は黒猫の体に巻き付き、口を縛り、目を塞いで、完全に自由を奪い、とうとう黒猫を銀色に輝く繭の中に閉じ込めてしまった。