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ラスボス前の商売人

 ライルは共同墓地に向かって石畳の路地を走っていた。息を切らせて階段を上がったり下がったり、角を右に左に曲がったりを繰り返して突っ走っていた。

 街を飲み込もうとしていた黒い泥は、今は引いている。

 街に人の気配はない。

 


 少し広い場所に出た。

 ライルはそのまま走り抜けようとしたが、視界に飛び込んできたものに、思わず立ち止まった。

 みんな避難した街で、派手な露店が商売をしていたのだ。

 その店主の顔を見てライルはまた驚いた。店主は首に赤いヘビを巻きつけてライルに向けて手を振っている。爬虫類の店をやってるポーだ。



「なにやってんだ?」



「よくゲームでいるだろ、ラスボスとの戦いの直前に現れる謎の商売人。あれだよあれ。あれならどんなボッタクリでも、みんな喜んで買い物してくれる」



「そもそもラスボスに挑むような客がいないだろ」



 ポーはニッと笑ってライルを指差した。



「お前がいるじゃないか。さあ買っていけ」



「俺は勇者様じゃない」



「みんな避難したのに、一人で一番危ない場所に走っていくのにか」



この商売人は妙に鋭いところがある。ライルはポーの商売人スマイルをうるさそうに見ながら言う。



「なにも買わないからな」



「今ならオマケにゾンビパウダーをつけるぞ?人を廃人にして意のままに操ることができる」



ポーは腰に下げた大きな袋から所々錆びた骸骨の模様が彫られた銀色の筒を取り出した。



「どっからそんなヤバイものを……。とにかく買わないからな」



ライルはポーの強引なセールスに背を向けて走り出した。



「ポーも早く逃げろよ」



「またこいよー」



 ライルは片手を上げ、振り返らずに走り出した。

 ライルはスピードを上げて、石畳の路地を上がったり下がったり、角を右に左に曲がったりして共同墓地までの最短経路を突っ走った。

 また少し広いところに出た。ライルは視界に飛び込んできたものに驚いてまた足を止めた。

 みんな避難した街で、派手な露店が商売をしているのだ。その露天の店主は首に赤いヘビを巻きつけていて、ライルに向かって手を振っている。



「よ~ライル。やっぱり何か買っていくのかー?」



 ライルは唖然とした。

 なんと同じ場所に戻ってきてしまったのだ。

 俺がこの街で道を間違えた?

 ありえない。

 ライルは手を振るポーを無視して再び走り出した。



 今度は慎重に路地を走った。どの階段を上がっているのか、この階段を下ればどこに出るのか。その角を左に曲がればどういう景色があるのか、右に行けば次にどの角があるのか。それらを一つ一つ確認しながら、共同墓地への最短経路を突っ走った。

 そして少し広いところに出た。

 そこにはやはり派手な露天があって、首に赤いヘビを巻いたポーがいて、ライルに向かって手を振っていた。



「お前、なにやってるんだ?」



不思議そうに言うポーに、ライルはつかつか近寄ると、ポーの右頬を思い切りつねり上げた。



「痛い痛い痛い!何しやがるんだ!」



「夢じゃないのか」



「なにがだよ?!ライルが同じところを行ったり来たりしてるんじゃねーか!」



 どうしてそんなことに?

 誰かに邪魔をされているからだ。

 何者かがライルの感覚を狂わせ、道に迷うように仕向けている。

 そんなことができる人間をライルは数人しか知らないし、その中で動機がある人間は一人しかいない。

 グレネの仕業だ。

 ライルはアベからの忠告を思い出した。



「魔女の革の手帳に気をつけろってこういうことか」



 ライルは焦った。

 すくなくとも地面を蹴って走っていく以上、グレネの影響から逃れるすべはない。共同墓地にたどり着くには空でも飛んで行くしかないが、そんなこと……。

 


 ライルは眼の、首に赤いヘビを巻いたポーを見つめた。

 ライルは少し前にポーに大変な目に合わされていた、それを思い出したのだ。

 ライルはポーの両肩を掴んで迫った。



「ポー、あのでかい風船はあるか?」



「風船?」



「ああ、前に俺がロロから逃げようとしたときに出してくれたでかい風船だ」



「あんなのを何に使うんだ?」



「共同墓地まで飛んで行くんだよ」



あの風船に掴んでいけば、少なくとも空を飛んで地脈の影響から逃れることができる。ポーは商売人スマイルで答えた。



「風船はないけど、似たようなものならあるぞ」



「マジか?!買う!いくらだ!?」



 さすがラスボス直前にでてくる商売人、ご都合主義なアイテムを売っている。

 いくらボラれるかなんて、気にしてはいられない。

 だがポーの回答はライルの予想とは違っていた。



「お代はいらない。まだ試作でほんの少~し危険もあるし……」



「なんでもいい、俺は早く共同墓地にいきたいんだよ!」



 ライルはポーの顔面につばを飛ばして言った。それを聞いてポーも「おっしゃ」と応えて、露店の奥からライルの肩までの高さがある箱状のものを引っ張り出してきた。



「この中に入ってくれ」



ライルがポーに言われたとおりに箱に入ると、かすかに火薬を焚いた後のような臭いがした。



「これで共同墓地まで飛んでいけるのか?」



「それは保証する。着地はそっちでどうにかしてくれ」



 ポーはポケットからアニメチックな赤いボタンを取り出すと「テン、ナイン,エイト、……」とやたらいい発音でカウントダウンを開始した。



「着地?」



 ライルは嫌な予感がしたが、ポーはカウントダウンを終えると、大声で「ポチッとなぁっ!」とボタンに拳を振り下ろした。

 ライルの足元でドウっと爆発音がおこり周囲の空気を揺さぶる。

 驚愕するライル。

 だがそのときには、ライルの体は共同墓地に向かって打ち出された砲弾となっていた。



「気をつけてな~」



 ポーはライルに手を振ったが、もうライルの姿は青い空のなかの小さな点になっていた。

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