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黒いモザイク(5)

 グレネとロロが、黒のモザイクの魔女と遭遇していた時、ヴェロニクのオフィスではライルの頭突きが侵入者の顔面に炸裂していた。

 吹き飛ばされた侵入者がオフィスのテーブルに激突する。そこへすかさずソルとジーガが飛び掛かろうとした時、窓から新手が二人、飛び込んできた。



 新手二人は腰からナイフを抜き、ジーガ達に対峙した。吹き飛ばされた男も立ち上がろうとした時、ドスっと、アッカのナイフが男の右腿に突き刺さった。アッカは男に苦悶する間を与えず、畳み掛けるようにナイフを投げ、新手二人の左右の腿に、同時に突き刺さった。



 侵入者がその痛みに気を取られた僅かな間、ジーガが日本刀のつかに手をかけて一瞬で踏みこんだ。ジーガは野獣のような笑みを浮かべ、侵入者の腹に居合を叩き込み、吹き飛ばす。その横では、ソルの赤いメリケンサックがもう一人の侵入者の顎を砕いていた。残りの一人が、形勢不利と逃走しようとする、が、その鼻先に大口径のショットガンが突きつけられた。



「動くんじゃないよ」



 侵入者の目の前に、怒りで自慢のリーゼントを天に突き立てたヴェロニクの姿があった。ヴェロニクの冷たい鎖のような声に男は抵抗をやめ、ゆっくり両手を上げた。



「あの、マダム。こいつらは自警団が預かりますので、ほどほどで……」



「だったら一人置いていってちょうだい。うちで飼うから」



 さっきまで和やかに話していたヴェロニクの変貌っぷりに、ジーガが遠慮がちになるが、ヴェロニクは目は怒りで釣り上あげられたままだ。「飼うって…………」アッカがビクンと反応したが、鬼のような形相のヴェロニクにそれ以上聞くことはできなかった。その横で、なぜかライルがうらやましそうな顔をしている。



「昨日の痴漢と似ているけど、どれも別人だな」



 ソルが手際よく3人の侵入者を拘束しながら言った。侵入者達の衣服や所持品も調べても、身元を特定できる物は見つからなかった。

 


ジーガがライルに聞く。



「こいつら、何しに来たんだ?」



「もしかすると、俺に用があったのもかもしれないな」



「こいつら、男のおっぱいに用があるのか?」



「さすがにそれはないだろうけど。こいつらが用があるのはグレネ・コンラディンと同じおっぱいだ。で、この中で最近一番グレネと接しているのは俺だ」



「だからお前が襲われるっていうのも、話が飛んでるぞ」



 ジーガの言う通りだ。だがライルには確信があった。侵入者たちは、まっさきにライルに襲いかかってきた。ヴェロニク・ブランキーのオフィスに押し入って、目の前にその主がいるのにもかかわらずだ。こいつらの目的はわからない。ここでライルを殺すつもりだったのか、どこかに誘拐するつもりだったのか。



「とりあえず、そいつらをつれて帰ろう。事情を調べるのはその後だ」



ソルは端末で応援を呼びながら、4人にそう言った。



「ねえ、私にはどの豚をくれるの?」



 ヴェロニクは断固こいつらを飼うつもりらしい。アッカはヴェロニクがこいつらに何をするのかとても興味があった。

 そのときアッカは一人目の侵入者の顔に、一瞬だけザザっと黒いモザイクがかかったように見えた。「んー?」驚いてもう一度よく見たが、男の顔にモザイクなんてかかっているわけがない。



 アッカは疲れているのかと思い、両方の手のひらで目をぐりぐりとマッサージした。昨日は遅かったし、今日もさっきまで細かい資料と睨めっこだ。今日は早めに帰って、ジーガと美味しい物でも食べに行こうかと、このあとのデートプランを考えはじめた時だ。「うわ!」とオフィスに悲鳴が上がった。



 見ると、なんと拘束されている侵入者たち顔が黒いモザイクで覆われていた。モザイクは爆発的に拡大し、侵入者たちの全身を、ジーガやソルや、オフィス全体を黒く覆っていく。悲鳴をあげる間もなく、アッカの視界も黒のモザイクで塗りつぶさた。モザイクの中に時折赤いノイズがガガガと走り、その度に頭が軋むように痛んだ。



 アッカは夢中でジーガに手を伸ばした。もう何も見えないが、それでもモザイクの中にジーガを探した。アッカの手が何度が空を掴んだ後、がっしと誰かの腕を掴んだ。黒いモザイクと赤いノイズが嵐のように荒れ狂う中、アッカはつかんだ腕を離すまいと抱きついて固く目をつむった。



 黒い嵐の中で10秒経ったか、それとも10分経ったのか、いつの間にか辺りは静かになっていた。アッカがゆっくり目を開けると、黒のモザイクは消えていてアッカがしがみついている腕が見えた。



 その腕はジーガの腕よりふた回り以上細くて柔らかった。その腕の主は高校の制服を着ていた。さらによく見ると、その腕の主はアッカがよく知っていて、そしていつか会いたいと願っていた女性だった。その女性は少し驚いたようにアッカを見ていたが、目が合うとにっこり笑った。



「もう大丈夫みたいね」



 アッカがしがみついていたのは、赤の城塞都市のトップアイドルでアッカのあこがれの女性、ロロ・セロンだった。アッカはまじまじと憧れの女性の顔を眺めていた。そしてそれがロロ・セロンだとわかると一瞬でのぼせ上がって、金魚のように口をぱくぱくとさせていた。



 ジーガはその様子をみて笑うと、オフィスを見渡す。メンバーは無事だった。アッカは目の前でのぼせ上がっているだけだし、ソルもアッカを見てニコニコと笑っている。ヴェロニクはショットガンを肩に担いでやれやれとリーゼントを掻いている。

 変化もあった。さっきまでいなかったロロ・セロンと、そしてグレネ・コンラディンがそこに立っていた。



「ここは……」



「ヴェロニク・ブランキーのオフィスだよ」



ジーガが状況を把握できていないグレネに説明した。



「ここにいたのはジーガさん達だけですか?」



グレネの質問はまるでここに誰がいたのか知っているようだ。ジーガは敏い子供のようにニヤリと笑った。



「さっきまでそこに目を封じられた男が3人いたんだけどな」



「そうですか」



 拘束されていた3人の侵入者の姿が消えていた。そしてグレネもそのことを予想していたようだった。しかし続くジーガの説明はグレネの予想を超えていた。



「あと、ライルがどっかいっちまった」



「!?」



「何か知っているか?」



「おそらく兄が……。一体何を考えているのよ、あのバカ兄はっ………」



 そのときジーガはグレネの口元に小さく黒い物が着いているのに気がついた。

 グレネは何事もないように親指で口元を拭い、美しい顔を整える。その顔は、ジーガに何も言うなと命じるような冷たい美しさだった。

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