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おっぱい揉みくらべ事件捜査本部

 ライルとジーガ、ソル、アッカの4人は自警団の詰め所で、山のような書類と格闘していた。これらは全てここ数日間で起きた痴漢による「おっぱい揉み比べ事件」に関する資料だ。



事件の被害件数は300件以上で、被害者は全員女性。

被害者の年齢は10代前半から80代後半までまんべんなく広がっている。

被害の発生箇所も発生時刻もバラバラ。

犯人は昼夜問わず人目もはばからず、手当たりしだいに揉みまくっている。



 被害者は全員が犯人からおっぱいを揉んだ感想を述べられていた。内容は「偽物」が最も多く、次いで「小さい」「垂れている」「ハリがない」が続いている。偽物といわれた女性はすべて寄せて上げるブラジャーなどを使用していて見た目の大きさをかさ上げしてた。



「そんなに多いのか?」



「これはかなり深刻だね」



「闇が深い……」



 衝撃の真実にジーガ、ソル、ライルも驚きを隠せない。男3人の視線は自然とその場にいるアッカの胸に向けられていた。それに気がついて、アッカは慌てて腕で胸を隠す。



「わ、私にはやましいところなんてないわよ!」



「やましいというより、悲しい、かな」



ジーガが本当に悲しそうな顔をすると、アッカのナイフが飛んできた。



「ライル、その右手どうしたの?」



 アッカがライルの右手の包帯を指差す。ライルは自分の右手をじっと見て、大きくため息をついた。



「災難というか、女難というか……」



横でジーガがおかしそうに笑った。



「あれは見物だったな」



「こいつ、何かしたの?」



「あのロロ・セロンが一日中ライルの右腕にしがみついて離れなかったんだよ」



「ロロ・セロン!?どうして!?」



ジーガの口か出た名前にアッカは大声をあげた。



「知っているのか?」



「当たり前じゃない!大ファンなのよ、わたし!

 どうして、あんたなんかの隣にいたのよ!?」



アッカはライルに鼻の穴を大きく広げて目を血走らせて言った。



「いや、右手を怪我した俺の為に、身の回りの事をしてくれるとかどうとかで学校にまでついてきてさ……」



ライルはアッカの剣幕に大きくのけ反り、今にもイスから落ちそうになりながら答えた。



「そんなのおかしいじゃない!

 私のロロ・セロンがどうしてあんたの為に!?

 学校の先生は何も言わなかったの!?」



「先生は……なあ……?」



 ライルが体をよじってジーガを見ると、ジーガも首を振って苦笑している。ロロは学校の生徒ではない。教師のリグはロロを注意しなければならないのだが、そうしなかった。というよりできなかった。



 リグはいっぱいいっぱいだったのだ。昨日ライルが公爵家令嬢のグレネに頭突きを入れてノックダウンさせてしまい、リグは処罰される一歩手前だった。

 この時点でリスのような精神の持ち主であるリグには過大なストレスがかかっていたのだが、ライルが今度はトップアイドルのロロ・セロンを伴って登校してきた。もう状況は完全にリグの容量を超えており、そのため彼女の精神は自動的にライルと彼に関係するあらゆる物を認識からシャットアウトしていた。



「それでもリグさん、最後には気絶して倒れたんだけどな」



ジーガがここにはいないリグに向かって合掌する。



「そ、ん、な、こ、と、よ、り!!」



アッカがバンとテーブルを叩きライルを睨んだ。



「ロロ・セロンはどうして今ここにいないのよ!?」



「転校の手続きがあるとか、ないとかで……」



「会える?」



「は?」



「私もロロ・セロンに会えるかって聞いているのよ?」



「た、たぶん……」



「たぶんだぁ~!?」



アッカの目に殺気が宿った。



「あ、明日、明日紹介する!」



「本当でしょうね?」



「本当だ!!」



「ぃやったー!!」



アッカはその場で大きくジャンプしてガッツボーズをして、ライルは盛大にため息をついた。

 







 ライルは「おっぱい揉み比べ事件」被害報告に目を通していて、痴漢がダメ出ししかしていない事に気がついた。痴漢から褒められたと言う報告が一つもない。



「こいつはどんなおっぱいなら満足なんだ?」



「そりゃ大きいおっぱいだろ。Fカップの女が、全員『小さい』と言われているから、少なくともGカップ以上じゃないと満足しないんじゃないか?」



ライルの疑問に答えたのはジーガ。ソルも報告書を手にしてジーガに同意して言う。



「Fカップより大きい人は『偽装』とか『垂れてる』って言われているね」



「G……」



アッカは両手を胸に持っていって、自分の胸との間にある越えられない何かと戦っている。



「Gカップだと、対象はかなり絞れそうだな」



そういうライルにジーガは「あまいな」と指を振る。



「例えば教会の若いシスターは、Gかそれ以上だぞ」



「マジか?!そんなにあるようには見えない……」



「だろ?ああいう服だとわかりにくいが、俺ぐらいになると腰の動きを見ただけで……」



 ライルとジーガがにやけている横で、ゆらりと殺気が立った。アッカの顔が般若になっている。



「まあまあ、アッカも抑えて。お楽しみは夜にとっておきなよ。それに痴漢はただのGカップを探しているだけじゃないだろうし」



ソルがアッカをなだめながら言う。アッカは般若面のまま報告書を指で叩いて言った。



「そうね。この被害者もGカップだけど『トップが5ミリ低い』って言われてるし」



「ミリ単位?そりゃ細かいな」



ジーガがアッカの手から報告書を受け取り詳しく見ていく。



「ん?この女は4回揉まれているんだな」



「おっきい人に4回以上揉まれている人が多いわね」



 アッカは痴漢に遭遇した時、モニュ、モニュ、モニュと3回揉まれたことを思いだし、再び顔に深い般若の皺を刻む。テーブルに4回以上胸を揉まれた被害者の報告書を広げて全員がのぞき込む。



「年齢はバラバラか」



「ほう、15歳でGカップとはけしからん……」



「コラ!電話番号をメモるな!」



「顔の好みもバラバラだな」



「コロッケ屋の奥さんもやられてるのか」



「あれはおっぱいというよりは肉って感じだよな」



「それ、今度言いつけておくからね」



「ちょ、カンベン!?」



「そうだぞ。あれはとてもいいものだ」



「ソルの守備範囲って無限大だよな……」



「こいつは本当におっぱいにしか興味がないのか?」



「うーん……」



 四人はテーブルをのぞき込んで、なにか共通点や特徴はないかとあれこれと考えたが、結局何も思いつかなかった。ライルはテーブルから顔を上げると、「……専門家に聞いて見ようか」とズボンの後ろポケットから端末をとりだした。



「専門家?」



「よし、アポが取れた」



ライルは端末をポケットにしまうと報告書の束をまとめて両手で抱えた。



「ジーガ、手を貸してくれ」



「それはいいが、専門家ってどこに行くんだ?」



ライルは背中で器用にドアを開けながら、



「SMショップだ」



そう答えると、ひとりでさっさと詰め所を出ていってしまった。



「あいつ、どこに行くって言った?」



「SMショップだって……」



ジーガが言うとソルが答えた。ジーガとソルは面白そうに笑うとライルの後を追った。



詰め所にはアッカ一人だけになった。アッカは3人が出ていったドアのほうを見ながら、3人を追いかけようかどうか迷っていた。



「ダメよ、そんなところ……。だけど……イヤ……ちょっと……でも……気になる……かも……」



アッカもゴクンとつばを飲み込んで、意を決して3人の後を追いかけた。


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