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トップアイドル ロロ・セロン(3)

塔の中は真っ暗で、ダンカンと呼ばれた老人が持つランプのまわりだけがぼんやりと明るい。油の匂いがわずかに鼻を刺激する。



ダンカンは背丈はロロよりも低く、腰も曲がっていて、かなり小さく見える。長く白いあご髭が床にまで垂れていて目は小柄な体に対して異様に大きく、顔のくぼみでぎょろぎょろと動いている。



ダンカンは窓を閉めると、何も言わずに階段を下り始めた。ライルが続き、ロロも恐る恐るその後について行く。ロロが階段の手すりにつかまって下を覗くと、螺旋階段が暗闇の中に吸い込まている。三人が階段を降りていく音もすぐに闇に吸い込まれていく。



「まだ、いらしたんですね」



「……帰ろうとしたら、音が聞こえてきたのでな」



ライルはダンカンの背中に向かって頭を下げてから言った。



「こっちは……」



「……ロロ・セロンじゃろ」



ライルが紹介するより早くダンカンが言った。ロロは驚いて急いで自己紹介をした。ライルは、ずっと塔に篭っているダンカンがロロのことを知っていたことがショックだった。



「……昔の女優に似とる」



ダンカンがぼそりと言った。



「へえ、なんて女優さんなんですか?」



「……シーヴィー・ザディ」



ライルの聞いたことのない名だった。振り返ってロロをみるとロロも首をひねっている。



「……ずいぶん昔じゃからな。……もう、400年前か」



「400年?!」



ライルとロロが驚いて声を上げた。昔というにはあまりにも昔だ。ダンカンは一体何歳なんだろう?



「……ライル。右手はどうした?」



不意にダンカンに言われて、ライルは驚きで右手に力が入ってしまいズキンと痛んだ。どうごまかそうかと考えたが、ダンカンの前でそれは無駄だとすぐに諦めた。



「どうしてわかったんですか?」



「……音がバラけている」



塔の中には、3人の足音がカンカンカンと響いているが、ライルにはどこかおかしいのかわからなかった。ダンカンには昔からどんな隠し事もできない。なぜバレてしまうのか理由もわからない。ライルはダンカンによく相手をしてもらったが、知らないことだらけだ。そもそもダンカンがここで何をやっているのかも知らない。



「昔もこんなことありましたね。俺が地下墓地で迷子になった時、鳴き声が聞こえたって見つけてくれたことがありましたよ」



「……あの時は、よく聞こえたからな」



ダンカンが大きな目を細めた。ロロがライルの肩を掴んできた。



「ライル、やっぱりケガしてるの?」



「ええっと……」



「見せて」



「はぁ……、後でな」



「必ずよ?」



こっちもごまかすのは無理そうだ。

ロロがライルに聞いた。



「この建物はなんなの?」



「時計塔って呼ばれてる」



時計塔は、底面が20メートル四方で、高さが200メートルほどの細長い四角錐をしている。ここは青の商都で一番高い建物で、街のあらゆる場所から見ることができる。ロロはこの塔の外観を思いだしながら首をひねった。



「時計なんて付いてたかしら?」



「ここには時計なんてないよ」



「だったらなんで時計塔なの?」



「みんなこの塔を日時計のかわりにつかってて、それで時計塔って呼んでる」



 ロロはあたりをきょろきょろと見回したが、真っ暗で何もわからない。



「何をするための建物なの?」



「わからない」



「へ?」



「ダンカンさんは何か知っていますか?」



「……わしもよく知らん」



ライルに話を振られたダンカンも首を横に振るのを見て、ロロは呆れたような顔をしている。ダンカンがクックックと低く笑った。



「……この街は、分けのわからないもので溢れとるよ」



3人はやっとで時計塔一階についた。ロロの脚はプルプルと細かく震えていた。ロロがホールのような空間を見上げると、金属のら旋が闇の向うまで延びている。ロロがライルの袖をついついと引っ張った。



「ねえ、ダンカンさんが着てくれたとき『音が聞こえた』って言ったけど、どうして聞こえたのかしら?こんな大きな建物なのに」



ライルもいま降りてきた階段を見上げた。本当だ。どうしてだろう。ここからは階段の一番上はみえない。ためにし耳を澄ませてみたが、ロロとダンカンの気配がするだけでなにも聞こえない。



「ダンカンさんって特別耳がいいのかしら?」



ロロが言うとダンカンが愉快そうに笑った。



「……儂は普通。ここが特別なんじゃよ。……今日はもう帰れ。迎えも来とるようだしな」



「迎え?」



ライルはホールを中を見回したが、3人の他に誰も見当たらない。ダンカンは、すでに出口のほうへ歩き出している。



ライルがダンカンに礼を言って出口の扉を開けようとした時、背中に氷柱を押し付けられたような悪寒が走った。冷たいプレッシャーの塊が扉の向こうにいる。ライルがゴクリと喉を鳴らしながら重い扉をギギギと押し開けると、扉の前で一人の少女が仁王のように立っていた。


その姿にライルは理由もなく恐怖した。少女は銀髪、碧眼、巨乳、度の過ぎた美少女で、公爵家令嬢。グレネ・コンラディンだった。

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