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トップアイドル ロロ・セロン(2)

「無茶するわね」



ロロは呆れていたが、とても楽しそうだ。その笑顔にライルの方が呆れてしまった。



「どうしてあんなとこから風船が出てきたの?」



「俺に聞かれてもなぁ」



「じゃあ誰に聞いたらいいのよ?」



「ポー」



「誰よそれ?」



「さて、どうしようか」



ライルはロロの疑問を放っておいて、どうやって降りようか考えてた。



「この窓、開くんじゃないの?」



ロロは窓に手をかけてガタガタと揺すり始めた。が、窓はびくともしない。



「たぶん朝まで開かない」



「そっかー」



ロロは窓から手を放すと、再びライルの横に座った。ライルとロロは窓の前に並んで座り、時計塔からの風景を眺めた。塔からは青の商都が一望できた。すでに日は沈み、暮色から夜色へ変わっていた。青の商都の夜は明るい。街全体から星明りを全て集めたような灯りが溢れていた。



「きれい」



ロロが夜景に見とれてほうっと息を吐いた。本当に綺麗だ。塔は夜には閉じられているから、この夜景を見たのはライルとロロが初めてかもしれない。一晩中ここで夜景を眺めているのも悪くない。



ライルはロロをみた。ロロは華やかな美少女だ。大きな黒い瞳と、コロコロと大きく変わる表情。星に喩えるなら太陽。花に喩えるならヒマワリ。人の目を引きつけずにはいない、そんな美少女だ。ロロの横顔は街の明かりでぼうっと照らされて、どこか神秘的だった。ロロが見られているのに気がついていった。



「私に惚れた?」



ライルは覿面に狼狽えた。それを見てロロは笑っている。ライルはやられてばかりでは収まらないと、反撃すべくロロの肩に手を置いてじっと見つめた。



「ああ、とても綺麗だ」



ライルの反撃は大きな効果があった。ロロはみるみる顔を赤くさせ、しまいには俯いて小さくなってしまった。そして、とても小さな声で、ぽつりと



「ありがと」



と言った。


反撃に成功し、満足感に浸っていたライルだったが、すぐに不安になった。俺はいまこの美少女に愛の告白をしたみたいじゃないか。もしかして、大きな失敗をやらかしたのかもしれない。ロロはいつの間にか、ライルの顔を熱っぽく見つめていた。そして、はっきり聞こえる声で言った。



「今晩は寝かさないから」



そしてライルの右腕をとり、体を密着させてきた。ライルには右腕に柔らかい感触を感じ、目は白い胸の谷間に釘付けになった。ムードは十分。邪魔する人間はいない。状況はオールグリーンだ。



しかし、ライルは先のようにロロの体に意識を持っていかれることはなかった。ライルは右手をポケットに突っ込んで、わざと厳しい顔をして言った。



「離れてくれ」



「イヤ」



ロロの即答をくらってライルはひるんだ。その言葉に鉄よりも固いものがこもっていたからだ。



「なぜ、くっつく?」



「絶対に離すなって言ったじゃない」



「それはさっきの話だろ」



「私はもうあなたを離すつもりなんてないから」



ロロはさらに強くライルの右腕に抱きついた。そして聞こえないほど小さな声で



「やっと見つけたんだから……」



そう言った。




「ロロって有名人なんだろ?」



ライルはロロの顔をのぞくようにして言った。



「そうね、顔を出して街を歩いたら、ちょっと騒ぎになるくらいは有名人ね」



ちょっと?あれが?ライルは、ついさっきの自宅前の様子を思い出していた。



「私のこと、知らなかったの?」



ロロは頬を膨らませて言った。



「芸能系は苦手で」



「ふーん。でも、いいわ。もう忘れないでね」



ロロは笑っている。しかし瞳は真剣だった。本当にもう忘れられたくない、失いたくないという思いがこもっている。ライルは目の前に広がる夜景のことは忘れても、この瞳は忘れられそうもない。それにしても、ライルがこの美少女と出会ったのは今日が初めてのはずだ。一体何が彼女にそんなに想わせるのか。



「今日初めて会った俺を離したくないって、どういうことなんだ?」



ライルがロロの大きな瞳を見て聞くと、ほんのわずかにロロの瞳が揺れた。



「私はね、あなたの体が目当てでここに来たのよ」



ん?

ライルは今日で何回目だったかまたしても耳を疑った。体目当てというのは、男が女に迫るときのことじゃなかったか。別に女が男の体を求めても構わないのだけど、なんだかおかしな気がする。ライルは少し悩んでいたが「そうか」と膝を打った。



「痴女か、お前」



「そんなわけないでしょ!」



ロロはとむくれた顔をして見せた。そしてロロはライルを引き寄せて、顔をぐいっと近づけた。



「でも、あなたが欲しいってのは本当よ」



ロロがライルの耳元で熱っぽく囁いた。ライルの下腹の辺りがかっと熱くなった。体の芯がとろけだしたのかと錯覚した。本能が危険だと警報を鳴らし始める。なぜだか分からないが、このままだとロロに食べられてしまうような気がする。


ロロの声が、匂いが、そして体の柔らかさと温もりが一斉になってライルの理性を奪おうとしている。下からムラムラがこみ上がってきている。ロロが追い討ちとばかりにライルの右腕に体重を乗せてた。そのとき、ライルの右手に激痛が走った。



「どうしたの?」



「なんでもない」



ライルは笑っていたが、顔には汗が滲んでいる。



「ケガしてるの?」



屋根に飛び乗ったとき、ロロは何一つケガをしなかった。だからライルも無事だったのだと思い込んでいた。



「見せて」



「何を?」



「あなたの体をよ」



「やっぱり痴女だ」



「ふざけないで!」



ロロとライルが押し合いへし合いをしていると、二人の後ろで、突然バンっと大きな音を立てて開かなかった窓が開いていた。真っ暗な窓の向こうで、ぎょろりと目が動いた。



「……うるさい」



「ひっ」



長い髭を垂らした老人が重く低い声でロロに言う。



「ダンカンさん!来てくれたんだ」



固まっているロロと反対に、ライルが笑顔で言った。老人は二人を見ると、何も言わずに奥へと歩き出した。ライルもロロの背中を押し、窓から塔の中へ入っていった。

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