プロローグ 坂道と手紙と朝のニュース
朝、共同墓地から出てきたライル・ローはそのまま石畳の路地を学校へと向かう。カバンから新聞を取り出すと歩きながらざっと目を通す。市場では少し豚肉が高い程度でその他はいつも通り。
次にニュース。
白の皇都では皇家第二王子の妃候補の選定は順調に進んでいる。
赤の城塞都市ではアイドルがライブをキャンセル。
白の皇都と赤の城塞の戦争終結400周年の記念行事の準備は順調に進んでいる。
ここ青の商都ではまた観光客が失踪があった。
また、3日前から現れた痴漢による被害が拡大していると報じられてる。被害を受けた女性は全員胸を揉まれて感想述べられており、すべて同一犯の仕業と見られ、被害件数はなんと3日で300件に達していた。
「おっぱい好きにも程があるだろ……」
ライルは新聞を鞄に突っ込むと、今度はポケットから封筒を取り出した。眉根に皺を寄せて中から便箋を取り出す。そこにはこう書かれれてあった。
「君には今日、少女との出会いがある。彼女……殺……くれないだろうか?」
ライルは今朝届いていたこの手紙をもう何度も読み返していた。所々インクが滲んでいて読み取ることができない。「彼女を殺してくれないだろうか」と書かれていたようにも見える。もちろんそんな頼みを聞くつもりもないし、もうこういう話には関わりたくない。
だがライルはこの手紙を捨てられずにいる。
気になるのだ。
手紙に使われている紙や消印などに別段変わったところはない。変わっているのは内容と、そして匂いだ。鼻に手紙を近づけるとわずかに香の匂いがする。この香は精神を高揚させる作用がある高級品で、宗教式典や魔術儀式などに使われる。
名前は確か竜臥香。
ライルも仕事で1、2回嗅いだことがあるが一般的なものではない。そんな香のしみついた手紙を、ただのイタズラで済ませることができないでいた。
もしここに書かれてあることが本当なら、今日、ライルには女の子との出会いがあるらしい。石畳の路地を抜けて広い坂道に出る。周りに登校中の生徒の姿も多くなってきた。あたりを見たが食パンをくわえて走ってくる女の子はいない。空からかわいい男の娘が落ちてくる様子もない。
振り返ると時計塔が始業時間10分前を指している。それを見てライルは手紙をポケットにしまう。制服の袖に白い花びらがついていた。ライルは花びらをつけたまま、丘のてっぺんにある学校へ歩く速度を上げた