劇台本・愛を見失った青年
劇台本です。どこで書こうか迷ったので、このサイトに書かせて頂きました。
動きをつければ、25~30分くらいの台本になるかな、と思っています。
登場人物
ナレーター
オースティン…天涯孤独な青年
アリッサ…オースティンの幼なじみの女性(後半、アリッサに似た女性として再度登場する)
ジャイラ…オースティンとも交流の深い老婆
村人A(家臣Aを兼ねる)
村人B(家臣Bを兼ねる)
村人C(家臣Cを兼ねる)
領主
家臣1
家臣2
家臣3
家臣4
アリッサの父親
アリッサの母親
(村人や家臣は増やすのも可能。また、圧倒的に主人公・オースティンの台詞が多い)
ナレーター「ここは、貧しくも、緑豊かな、美しい湖のある領地」
舞台上手より、オースティンと老婆登場
ジャイラ「いつも助かるよ、ありがとうオースティン」
オースティン「俺は天涯孤独の身だからな!いつも良くしてくれる村の人達の役に立てるのが嬉しいんだ!」
ナレーター「彼の名はオースティン。つい先日、唯一の肉親であった、母親を亡くしたところだ」
ジャイラ「あんたは良い子だからね、みんなあんたのことが大好きさ」
オースティン「ありがとう、ジャイラおばさん」
ナレーター「いつの間にか、2人はオースティンの家の前に着いていた」
舞台下手からアリッサ登場、バスケットを置く
オースティン「アリッサ!」
アリッサ驚いて下手に走り去る
オースティン「アリッサ!待ってくれ!」
オースティン、アリッサを追いかけて下手へ、が、直ぐに戻ってくる
オースティン「毎度のことながら、本当に足が速いな、アリッサは」
ジャイラ「これは、パンとシチューだね。アリッサはあんたのお母さんが死んでから、ずっとこうして?」
オースティン「ああ、そうなんだ。けど、毎日俺が居ない時を狙って置いていくものだから、お礼を言わせてくれる間さえ与えてくれないんだ」
ジャイラ「パンは、わざわざ違う種類のを2種類焼いてある。あの娘は本当に真面目な良い子だねぇ」
オースティン「ああ、そうなんだよ!アリッサといったら、本当に真面目で綺麗で可愛くて、それに、とても優しい子なんだ!」
ジャイラ「あんたの天涯孤独はすぐに終わりそうだね」
オースティン「え?」
ジャイラ「アリッサを嫁に貰えば良いのさ」
オースティン「……そうだな、そうなってくれれば良いな。ジャイラおばさん、俺は今からアリッサにお礼を言ってくるよ」
オースティン下手にハケる、ジャイラ上手にハケ、入れ替わるようにナレーター上手より出る
ナレーター「とある村に生まれた、天涯孤独の青年、オースティン。彼は、幼なじみの女性、アリッサに恋をしていた。恥ずかしがり屋な彼女の元に、オースティンは今日も愛を囁きに向かう」
ナレーター上手にハケる
オースティン下手より登場、上手の方を向き片膝をつく
オースティン「ああ、愛しのアリッサ!今日も美味しい差し入れをありがとう。君に会えるだけで、俺の心は、君の家の屋根をも飛び越えてしまうだろう!愛しの君は、まるでこのアリッサムの花のようだ」
上手よりアリッサ登場
アリッサ「……そんな恥ずかしい台詞、毎回よくも言えたものね」
オースティン「アリッサ!」
アリッサ「……恥ずかしい人。早く帰ってお食事を召し上がって眠ってください。今は夕方で、早く休まないと明日になってしまうわ。いくら貴方が丈夫だといっても、自分を大切にしなくてはいけませんよ」
オースティン「ああ、優しいアリッサ。君は早く休めと言うけれど、君のことを考えると、夜も眠れそうにないよ」
ナレーター「オースティンは毎日のようにアリッサに愛を訴え続けた。恥ずかしがり屋のアリッサも、ついにはオースティンの手を取り、2人は恋人同士となった」
暗転
照明、白に青を足して
舞台中央にオースティンとアリッサが並んで座っている
オースティン「アリッサ、俺は貧しく天涯孤独な空っぽで何も持っていない。それでも俺を、愛してくれるか?」
アリッサ「オースティンはそのままでいいのです。空っぽでもいいではありませんか、私はそのままの貴方が好きです」
オースティン「ああ、アリッサ。空っぽな俺だが、今は君の愛で満たされているように感じるよ」
アリッサ「ふふ……相変わらず恥ずかしい人」
アリッサ上手にハケる、オースティンはストモ
ナレーター上手より出る
ナレーター「アリッサと恋人になったオースティンは幸せな毎日を過ごしていた。しかし、ある日オースティンは領主の城へ呼ばれた」
下手より領主登場、椅子に座っている(車椅子を家臣に押させていればなお良し)
オースティン「領主様、俺に何の御用でしょうか?」
領主「うむ、実はな……オースティン、お前はわしの隠し子なのだ」
オースティン「……どういうことでしょうか?」
領主「意味としてはそのままだ。それでな、わしももう高齢で、寿命は見えておる。実子は先の戦で死んだ。だからせめて、血の繋がったお前に、跡を継いで欲しいのだ」
オースティン「……少し、考えさせてください」
領主「うむ、良い返事を期待している」
領主ハケる、ナレーターにスポット
ナレーター「オースティンは随分悩んだが、その話を受けることにした。天涯孤独のオースティンにとって、誰かに必要とされることは、中毒性のある喜びだった」
照明全体、アリッサ登場
オースティン「アリッサ、俺も仕事を覚えて、やっと皆に認められるようになったよ。今度、新領主の発表を行う、その時に君を妻だと紹介しよう」
アリッサ「オースティン、私は貴方の傍に居られれば良いのです。他に何も要りません。貴方を愛しています、私には、それだけです」
アリッサ上手にハケる
ナレーター「そうして、式典の日がやってきた。オースティンは喜びに満ち溢れていた。しかし……」
家臣1「オースティン様!大変です!」
オースティン「何があった?」
家臣1「アリッサ様が、殺されました!」
オースティン「嘘だろう……」
家臣1「盗賊に殺されたそうです……」
家臣2「オースティン様!式典まで時間がありません!来てください!」
家臣2、オースティンを連れて下手にハケる
上手より、村人と家臣が現れる
着替えた(上着羽織るくらい)オースティンを連れて家臣2が出てくる
村人A「おめでとう!オースティン様!」
家臣3「新領主の就任だ!」
村人B「おめでとう!」
村人C「おめでとう!おめでとう!オースティン様!」
暗転
幕を閉める
幕前照明
村人A〜C登場
村人A「いやぁ、今日も稼いだなぁ」
村人B「花も果物も飛ぶように売れた」
村人C「こんなに生活が楽になったのも……オースティン様が領主になったからだね」
村人B「そりゃあ、そうさ!オースティン様はつい最近まで俺達と一緒に暮らしてたんだから」
村人A「そうそう!俺達のことはオースティン様が1番分かっているさ」
村人C「……でも、オースティン様は領主になってから、村へ1度も来てくださらないわ」
村人A「馬鹿なことを言うなよ、領主城がオースティン様の帰る家さ」
村人B「……それに、この村に来れば、アリッサのことを思い出してしまうだろう?」
一同、沈黙
村人C「アリッサ、可哀想。湖を散歩してたところを、賊に襲われて殺されたのよ。私、アリッサと友達だったのに」
村人A「真面目で優しい良い子だったよな……でもなんで、夜にそんなところに散歩に行ったりしたんだろう?」
村人B「アリッサの両親も、あの後直ぐに引っ越してしまったしなぁ……」
村人C「アリッサ、よく言ってたのよ?「オースティンったら、昔から全然変わらないの。でも、そんなオースティンを見てるのが嬉しいの」って」
村人A「本当にお似合いだったのになぁ……どうしてアリッサは死んでしまったのか」
村人、バラバラにハケる
それに合わせて幕が開く
拘束されたアリッサの両親が舞台中央付近に座らされている
上手よりに椅子
オースティン、やつれた姿で上手より登場して椅子に座る
オースティン「お前達の証言通り、アリッサを殺した賊を捕まえた。拷問にかけて、詳しく話を聞かせてもらったよ……あの夜、アリッサの家に強盗が押し入り、アリッサの両親を誘拐した。返して欲しくば、ありったけの金を持って湖へこい、と言い残して。彼女は周りの家に助けを求めたが、誰1人として出てこなかった。
彼女が湖へ向かう途中、仲良くしていた老婆、ジャイラに出会う。ジャイラは俺に頼るように助言するが、アリッサは首を振ったそうだ」
アリッサ(声のみ)「あのお方はもう領主様。危険なことに巻き込む訳には行きません。両親は私が助けます」
オースティン「そう言って彼女は湖に向かった。湖に辿りついた彼女を待っていたのは、賊と両親だった。彼女は金目のものを差し出して、両親を返してくれと懇願した。真面目で素直な彼女だったから、誠心誠意頼めば返してもらえると思っていたんだろうな。だが、賊は彼女を両親の前で蹂躙し、殺した。死体は、俺の贈った花嫁衣裳と一緒に湖に沈めたそうだ」
アリッサの両親、俯き震えながら話を聞く
オースティン「ここで、証言にいくつかの矛盾があった。それを確認する為に今日まで時間がかかった。まず、アリッサが助けを求めた家人達……彼らは何も知らないと言った。調べたところ、俺の家臣に買収されていたらしい。そして、アリッサがあったという老婆、ジャイラの行方」
オースティン、立ち上がってアリッサの両親の顔を覗き込む
オースティン「知りたいか?知りたいだろう?なんせ、口封じに殺そうとしたのを逃げられたんだからなぁ。彼女は俺が匿っているよ。事が済めば、安全な地方に移り住んでもらうつもりだ。
さて、ここでもう1つ、湖から上がった死体はアリッサのもの1つだけ……金品を持ってきたのに惨殺するような賊が、何故、アリッサの両親を殺さなかったんだろうなぁ?教えてくれるか、アリッサの父上、母上」
アリッサ父「そ、それは、何度も申し上げた通り、偶然通りがかったオースティン様の家臣に助けていただいて……」
アリッサ母「……アリッサが殺された直後に見つけていただいて、もう少し早ければ……」
オースティン「嘘をつくな!貴様らのつまらぬ嘘は聞き飽きたわ!既に家臣は拷問して白状させている故、お前達の罪は露呈している!貴様らは家臣の甘言に惑わされ、実の娘を!殺したのだ!」
オースティン椅子をアリッサ両親の方へ蹴り飛ばす
オースティン「アリッサが襲われている間、お前達はなにをしていた?彼女はお前達に助けを求めて手を伸ばしたそうじゃないか!あげく、お前達を助けようとした娘に、お前達はなにを言った?言ってみろ!」
アリッサ父「……お前がオースティンに手を出したのが悪い……と」
オースティン「そうだな、その通りだ!だか、いいか。彼女を追いかけていたのは俺だ!最初から最後まで、俺が彼女を追いかけていたんだ!」
アリッサ父「お許しください、オースティン様。何でもいたします」
オースティン「何でも?ならばアリッサをここへ連れてこい」
アリッサ母「オースティン様……」
オースティン「出来ないよなぁ?お前達がアリッサを殺してしまったんだもんなぁ?どのみちお前達にはここで死んでもらう」
アリッサ父「オースティン様!どうかお慈悲を!」
アリッサ母「アリッサは、親の死を望むような子ではありません!」
オースティン「アリッサが、そう言っているのか?」
アリッサ母「……え?」
オースティン「今もなお、お前達の死を願っていないかは、アリッサに直接聞かねば分からない」
オースティン、拳銃(無ければナイフ)を取り出す
オースティン「だからあの世でお前達がアリッサに聞いてきておくれ。ああ、俺から、愛してる、という伝言も頼む」
銃声(ナイフならば無音)
暗転
ナレーター「こうしてオースティンは、表では善政を築きつつ、裏ではアリッサの死に関わる者を次々と殺していった」
舞台上手側半分、照明オレンジ
建物の燃える音(建物のセットがあればなお良し)
無表情にそれを見つめるオースティン
ナレーター「オースティンはまず、アリッサが助けを求めたのに、助けなかった村人の家を焼き討ちにした」
上手側照明消す、下手側照明
オースティン下手に移動
家臣A、Bが倒れており、家臣C、オースティンに胸ぐらを掴まれる
家臣C「た、助けて、助けてください……!」
オースティン微笑み、無言で家臣Cの首をかき切る
ナレーター「続いてオースティンは、ことを企てた家臣を皆殺しにした」
上手側、照明白
オースティン上手側に移動
家臣1「オースティン様、こちらの娘とご結婚なさるのはどうでしょうか?」
アリッサに似た女性が現れ一礼
オースティン、女性に手を伸ばし抱き寄せると、そのまま首を切って殺す
崩れ落ちる女性
暗転
全体照明白
中央に家臣1〜4が集まっている
家臣2「どうする、オースティン様の評判は最悪だぞ。傍に仕えた女性が次々に殺されて、今では殺人狂扱いされている」
家臣3「それに、だ。このまま関係のない領民にまで手を上げるようになったらどうする。オースティン様の目は正気じゃない、我々の言う事など聞かないだろう」
家臣4「隠し子から勝手に領主に押し上げられて、最愛の人まで奪われたんだ。おまけに、領主になる前は天涯孤独だったそうじゃないか。唯一の拠り所まで奪われては……オースティン様でなくたって狂うに決まっている」
家臣1「正義感の強い青年だと思ったんだが……こうなっては、もう……」
家臣達、顔を見合わせて頷く
暗転
オースティン「本当に、湖にアリッサムが咲いているんだな?」
家臣1「ええ、湖に寄り添うように咲いているそうです。きっと、アリッサ様がオースティン様にお会いしたくて咲いているのでしょう」
中央より少し下手側、アリッサムの花が咲き乱れているセット
オースティン「ああ、本当だ……アリッサ、君なのかい?」
オースティン、アリッサムの花を手に取る
オースティン「アリッサ……俺は君を守れなかった……どうか俺を許しておくれ、アリッs……」
家臣2、背後からオースティンにナイフを刺す
「……あ」
崩れ落ちるオースティン
家臣3、オースティンの口に小瓶を押し付ける
家臣3「苦しみを和らげる薬です……せめて、安らかに」
オースティン「あ、あ、あ、……」
オースティン、小さく痙攣するも、身体を起こして湖を覗き込み
オースティン「アリッサ……そこに居るのかい?僕は、随分と君を探してしまったよ」
家臣2「口調が幼くなったな」
家臣4「死の間際で幻覚を見て、幼児退行を起こしているのだろう……見守ってやろう」
オースティン「ああ、愛おしの君、君は僕の全てだ……愛しの君は、まるで、このアリッサムの花のようだ……愛しているよ、アリッサ」
オースティン、アリッサムの花の中に崩れ落ちる
全体照明消す、上手側、ナレーターにスポット
ナレーター「オースティン領主の治世は、家臣の暗殺により、5年で幕を閉じた。湖の畔には、今でもアリッサムの花が咲き誇っている」
暗転
幕閉める