第99話
「おはようございますー。」
朝の10時頃、誰かが来たみたい。
まさか…。直ぐに警戒する。
今日はパパやママへの来客も無かったはず。
私は2階の自分の部屋にいたけど、台所で朝食の準備をしていたママが玄関で対応した。
「水樹ー。ちょっと来てー。」
ピンッときた。やっぱりね。
直ぐに雛ちゃんに現状をメールしておく。
『あいつらが来た。続報を待て。』
直ぐに返事がピロリンという電子音と共に返って来る。
『はーい♡』
1階に降りて玄関に向かうと、登山家風の気の良さそうなおじさんが立っている。
高賀山に登るには重装備だと思った。
つまり、高賀山の事なんか知らないまま、何となく登山家の格好をしてきた訳だね。
「何の御用でしょうか?」
私はおじさんの目を覗きこんだ。
ふーん、なるほどね。
「噂に違わぬ美しいお嬢さんで…。」
「お世辞はいいの。」
「お世辞ではありません。」
「陛下が呼んでるのね。」
突然ズバリ答えた。
「話しが早いようで…。」
「私の力を知っていながら聞いたのね…。面倒くさいなぁ。あーなるほど、能力の探りの役目もあるのね、おじさん。」
「………。」
おじさんは少し驚きながらもこちらを観察している。
ならば…。
ドンッ!!!
一気にギアを上げて、最高レベルで霊力を高める。
青いオーラを纏う。
何度か試したけど、もう暴走する気配すらないよ。
鬼になるかならないかの分岐点は通り越しちゃったみたい。
「なんという霊力…。」
「「「去りなさい!!!」」」
この状態からの言の葉の力は、とても強よいの。
たかが言葉、されど言葉の力。
おじさんは平伏してしまった。
「失礼しました…。私、陛下直属 第一諜報部隊隊長 近衛と申します…。」
「私は安藤 水樹です。高賀山代表を自負しています。」
「承知しております。あの太古より猛威を奮っていたさるとらへびの退治、誠に感謝申し上げます。陛下はその事を喜び、礼を申し上げたいとお招きしております。」
「分かったわ。いずれ会わないといけないものね。従者を連れて向かいます。何時にどこでしょう?」
「ハッ。13時に金華山岐阜城にて。」
「わかりました。」
「では…。」
近衛と名乗ったおじさんはスタスタと歩いて戻っていく。
途中振り返ると、一度深く礼をしていった。
やれやれ…。
ちょっとやり過ぎちゃったかな…。
直ぐに雛ちゃんに結果を連絡し、岐阜城下で待ち合わせすることにした。
もちろん黒爺こと高光様にも来てもらうよ。
「天大!!!」
空に向かって叫ぶと、直ぐに目の前に現れた。
「どうした?霊力が高まったみたいだけど?」
「来たよ。あいつらが。」
「あぁ、そういうことか。で?行くのか?」
「うん。13時に岐阜城ね。あ、その前に城下で雛ちゃんも連れていくね。」
「OK。俺、特にやることないし、この辺でトレーニングしてるわ。」
「お昼一緒に食べよ。後で来て。」
「あいよ。」
このことを両親に伝えておく。
それと、何かあった時は高賀山の妖怪達と連携が取れるようにしておかないとね。
だから妖怪さん達にも連絡しなきゃ。
「蘭ちゃん。」
ポワンと煙と共に現れると、今の会話を聞いていた蘭ちゃんは「行ってまいります」とだけ言って姿を消した。
中央と東西南北の代表者に行くことになるね。
さて、時間もあるし、私は高光様を迎えに行こうかな。
そして、いよいよ陛下との対面の時間を迎えた。
岐阜城下、ロープウェイ乗り場を目印に雛ちゃんと合流する。
「お久しぶり~!」
とか言いつつ、しょっちゅう連絡取り合っているので懐かしさはあまりないかな。
でも髪型が変わっていてちょっとイメージ変わったかも。
天大が二往復して、金華山山頂にある岐阜城へと到着する。
ここに陛下がいるのは間違いない。
お昼のニュースで岐阜城見学ってのがあったしね。
マスコミとかは完全にシャットダウンされているみたい。
こうなると岐阜城へ来るルートが決まっている分、対処はしやすかったのかも。
まぁ、これは多分、妖怪とかの警戒も含まれているよね。
岐阜城とは言うものの、今は資料館となっている。
木像じゃなくて鉄筋コンクリート造だしね。
でも資料館とは言っても、外見はお城のようだし、窓から見下ろす濃尾平野は絶景だよ。
いつ見ても凄く壮大!
これを見た城主が天下取ってやろうって思う気持ちも、分からなくはないかな。
資料館は厳重に警備がしてあって物々しい雰囲気だった。
高光様は黒爺の姿で具現化し、4人で中に入っていく。
名前を名乗らずとも通してくれた。
広い部屋の中央で椅子に座る陛下。
隣には人型の妖怪が立っていた。
「初めまして、水樹殿。来てくれたこと、歓迎しましょう。そして先の件、ご苦労でした。我々も気にしてはいましたが…。」
「初めまして、陛下。上辺だけの会話は止めましょう。倒せなかったから放置したってことは重々承知していますし、それを笑うつもりもありません。」
「話しが早いですね。こちらの御方は岐阜県を統括する妖怪である、白狐と申します。」
そう言って隣に立っていた妖怪さんを紹介してくれた。
普段は人型だけども、狐にも变化することが出来るようね。
体格的な特技を、それぞれ活かせるメリットは大きいかも。
私が蘭ちゃんに憑依してもらうのと似ているかもね。
私は白狐さんを紹介してもらった意味を考えた。
恐らく私を監視対象にしたいのだと思う。
黒爺も言っていたように、強すぎる力で招かねざる客を呼んじゃったってことだよね。
「彼の指示に従えと?答えは却下です。」
「そう早まるでない。」
「どちらが岐阜県統括に相応しいか争う気もありません。」
「まぁ、落ち着きなさい。」
そこまでの会話を聞いて白狐さんが口を開いた。
「水樹様。私は岐阜県統括をあなたに譲りたいと考えています。」
その言葉に嘘は感じられなかった。
「どうじゃ?もちろん報酬は支払わせていただこう。」
「興味ありません。」
「そなた個人の問題かな?よく考えてごらんなさい。」
「………。」
確かにそれは言えるよね。
長年さるとらへびが放置されていた事実、それは倒せる味方が居ないことを指している。
だから私にってことなのだろうけど、だけどそうなると高賀山周辺が気になっちゃう。
やっぱり故郷は一番気になるでしょ。
「私は高賀山山麓に産まれ育ち、だからこそ、ここにいる友と命を賭けて戦いました。陛下のような我が国を憂いて闘った訳ではありません。」
「そなたの郷土愛、大切なことである。」
「はい。だから、私が岐阜統括兼高賀山代表という条件ならばお受けしましょう。ただし、岐阜県代表補佐として白狐さんを、高賀山代表補佐をこの人にお願いします。」
そう言って黒爺を指した。
「ワシで良いのか?」
「黒爺なら間違いないよ。絶対的に信用出来るもん。」
そう言って笑みがこぼれた。
黒爺はちょっと照れた後、深々と礼をした。
「ふむ。…、そこの者、ただの生霊ではないな?」
「藤原の高光様です。」
そう紹介すると陛下の表情が一瞬変化した。
1000年以上前、朝廷を支配した藤原家の一員であるからね。
「良かろう。私は、岐阜は重要な場所だと認識しています。本州の中心であり、京の東の最終防衛ラインにもなっています。」
「東京が最終防衛すべき場所では無いのですか?」
「うむ。やはり妖怪との戦いは京都が最重要である。」
ふーん。そうなんだ。
「いずれ、水樹殿と同じく巫女の血を濃く引き継ぐ者達とも面会させましょう。そして、我が国が置かれている状況を把握していってください。」
「はい。その時は宜しくお願い致します。」
「そうと決まれば、一度実力が観たいのですが、どうですかな?」
「いいですよ。」
そう言うと、陛下の霊力が一瞬だけど、恐ろしいほど高まり、陛下の両脇にどこかで見覚えのある大きな妖怪が二人現れた。
「天皇家を守護する親衛隊一番隊、風神と雷神である。」
………。
いきなりラスボス…。
声にはならない緊張感が、岐阜城を覆った。